相手を見ているのか、それともその付加価値に惹かれているのか

 声優のLynn(りん)さんは、ツイッター上で「女性声優と結婚するにはどうすればいいのですか」と聞いてきたファンに対し、「なんで女性声優と結婚したいんですかね?」と答えた。続けて「職業でしか見てないのかな?笑」とも。



 世の中には、色々な肩書の職業がある。

 会社員やお店屋さんなど、その地域の特定の人間関係で終始する職業が圧倒的に多い中、とりわけ仕事の性質上「身近でない大勢の人に注目される」ものは、人気が高い。平均的な人間においては「人より目立ちたい・注目されたい」「特別でありたい」と願う欲求があり、それがそうした「有名人になる」という夢を抱かせるのだろう。若い人にその傾向が特に強く、世間が認める「成功」とやらをすることが人としての最上の価値だと考える節がある。

 名声の次に大事なのは「お金」である。名声とお金、それがあることが「普通に町の片隅で、親や知人以外に知られることもなく埋もれて死んでいく」ことが、ある考え方をする人種には「負け」であると思えるらしい。だから、昔はそういう上昇志向の強い人間が「オレはビッグになる!」という言葉を言ったりした。



 結婚というのは、人それぞれだろう。だから、こんなことで何か一般化して、理屈で語ることにあまり意味はない気がする。

 ただ、筆者の経験からいうと「好きになった相手が~だった」ということだった。決して、~だからその人と結婚した、という薄っぺらいストーリーなど成立しないと考えている。そこには、個別に他人が理解できない複雑で、当の本人ですらその因果を解明できないドラマになっているはずだ。

 


●どうやったら~な人と結婚できますか、などと言えるのは、結婚というものにちょっとでも真剣に取り組んでみたことのない人物だけである。



 結婚して、しかもその結婚生活が長続きしていて「きっとよほどの事件が起きない限りこの人の隣に一生いるだろうな」と考えられる人なら、まず例外なく根本的に「その人」を愛したのである。

 その人が結果的に「女優」であったり「モデル」であったりするかもしれないが、「モデル」だから「女優」だからという動機が先にある人は、多くのケースでうまくいかない。うまくいっても、それは最初は肩書に惹かれたが付き合っていくうちにちゃんとその人の良さを見つけられるケースである。そしてそのケースは可能ならうらやましかろうが、最終的にうまくいく難易度は高いと言っておこう。なぜなら、あなたがそれに気づくスピードよりもはやく「相手のほうがあなたの本質に気付き、向こうから愛想を尽かす」リスクが高いからだ。

 ゆえに、筆者の見解では、正味のその人よりもその人に引っ付いている付加価値(美人・巨乳・資産持ち、有名人など)に魅力を感じてする結婚は、周囲や成り行きの妙に助けられない限りいばらの道である。



 ファンというからには好意的な人物なのだろうが、相手に「どうやったら人気声優と結婚できますか」と問うのは愚かの極みである。その言葉によって、もしその人気声優が声優の道を歩んでおらず、そのあたりの道を歩いているだけならまず注目しなかったであろうし、結婚したいと思わないという可能性を示唆しているからである。

 あなたが人気声優だから好きなんです。人気声優じゃなかったら、好きじゃなかった。人気声優と結婚したくて、それは別に(人気でさえあれば)あなたでなくていいということでもある。



 スピリチュアルという世界は、芸能界や世間一般とはちと違う世界である。

 そのはずであるが、人気で大儲けをしている指導者のファンをしている人、特定のメッセンジャーや占い師に入れ込んでお金をつぎ込む人は、正味のその人を見ているのだろうか。甚だ疑問である。

 売れている時は追いかけ称賛し、そうでなくなったら乗り換える。もちろん、その指導者がおかしな風に変わってしまったとか、軸がぶれておかしなことを言いだし、初期の魅力がなくなってしまった、ということもあるから指導者側に問題があることもある。ただ、そっちは少ないのではないか。

 商業ベースというものに乗っかると、その時々の熱病のような「はやりすたり」というものに振り回される。こちらが不動の軸をもって飾らず伝えたいことを伝えるのがスピリチュアルメッセージのはずなのに、それをすることで逆に「商業ベースでは不利に働き、埋もれやすくなる」。逆に、軸をある程度割り切って捨て、商業ベースというサーフィンの波にうまく乗ることで、皮肉にもそっちのほうが広く世に拡散され「これこそスピリチュアル」だと皆に思われるという状況がある。



 どうやったら人気声優と結婚できますか、と問うた人と、スピリチュアルファンとはそう変わらない気がしている。結局、「その人」を見ているのではなく付随する付加価値を見ているし、それに惹かれているのだ。「有名なスピリチュアル発信者」が好きなのであって、ただ「スピリチュアル発信者」なら好きじゃないのだ。

 オススメなのは「メッセージが好きなのでファンだが、その人がたまたま現実に有名で人気な人だった」である。もちろん、入り口は「人気だったからこそ目についた」でいい。だが大事なのはそのあとである。アメリカの大学と同じで、入学はたやすいが卒業が難しい。重要なのは、あなたがいったいどんな理由でその人に「飽きる」かである。

 スピリチュアルは、芸能の世界とは違うのである。後者ならいくら推しが変わろうがそんな理由どうでもいいが、この世界でそこをうやむやにして何人も指導者を乗り換える人は成長できない。精神的成長というものは、自分の中にある問題にフタをして見ずに進もうとしても、不可能になっているからだ。もちろん、成長した風(そういう雰囲気に浸る)ことはできる。かなり気のせいだけど。



 恋愛や結婚もそうだし、人生の師を見つけ学ぶのもまたそうだが、自分に問うことが大事だ。なんでこの人なのか? この人でないといけない理由は何だ? この人から名声や世間的評価や価値が取り去られても、その人の本質自体を好きか?

 もしこれらの問いにはっきり答えられない(あるいは答えを出したくない)ならば、自分の幼さと弱さに気付くべきである。

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