十分に外を見ましたか?

【回光返照】(えこうへんしょう)


 他人の言葉や考えに学ぼうと、外ばかりに向いた心を内に向けること。

 道元禅師の言葉。



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 例えば、有名人の講演会があると聞いては出かけていき、ベストセラーの「生き方」の本があると聞いては飛びついて、買って読んでみるといったふうに、他人の考え方や著名人の有り難い『おことば』ばかりを有り難がっているようなケースでこの言葉を使う。

 その、外にばかり向いたライト(光)を、己の内側に向けてみるのである。

 外ばかり探していたのが、実は一番近いところ、すなわち己自身の中に答えはあった。と気付くのである。いくら偉い人の言葉でも、それは他人のもの。

 他人の考えばかりなぞっていると、本当の自分を見失いがち。そんな時は、自分の内側と向き合ってみましょう。きっと気付きや発見がありますよ——



 この「回光返照」という言葉の説明は、だいたいそのようなものである。

 何度も言うが、たとえ禅の言葉と言えども、どこから切って眺めても「真理」だという言葉はない。この言葉にしても、一面の真理ではあっても、ある状況下では役に立たない。

 役に立たないケースとは、あなたの心にデータが十分でない場合である。たとえて言えば、カレーを作るのにルーであるとか肉であるとか、大事なものが欠けている場合である。食材が足りないのでは、料理する以前の問題である。



 大人になって社会人になる前に、学生時代というものがある。一応の建前では、小中学校という義務教育期間を経ることが望ましいとなっている。

 あと、義務ではないが高校、大学。なぜかというと、その期間に「社会に出る前に必須なこと」を学ぶからだ。

 現実問題は別として、学生時代という準備期間(社会へ出る前に自分を高める)期間を経てから、満を持して社会へはばたくという流れに、建前上はなっている。

 それと同じで、この「回光返照」という言葉を気にする意味が生じるのは、「十分に情報を集めた人、考える材料を十分に蓄えた人」である。それは、ちょうど学校教育期間を全うした人のことに当たり、社会人として独り立ちできる(他者の意見をなぞるのではなく、自分の思想信条をもつ)。



 だから、この「回光返照」という言葉をまだ未熟な状態で知っても「そっか!答えは外ではなく、自分の中にあるんだね、よし!」そう合点してさっそく自分の内側と向き合うが……あれれ、何も出て来ない。

 それもそのはず、その人の中に答えを導きだせるだけの「情報(知恵としての知識)」が少ない。もっともっと、学んで経験して感じて増やさないといけない。

 食材のバリエーションが豊富にないと、オリジナルで独創的なあなただけの料理は作れない。そんなあなたなら、「外を見ず内と向き合う」など10年早い。

 禅の言葉と裏腹だろうが、スピリチュアル指導者の講演会でも通いなさい。本も、読み漁りなさい。内側を向くのは、まずは色々と情報収集をし、世界を知ろうと努力した下地を作ってからでいい。

 仮に、それなしで悟りの視点だけいきなり持てた人物がいたら、高確率で大迷惑なやつになる。



●「外ばかり見てないで内を見よ」だから、外ばかり十分に見た人向けの言葉であることに注意。外も十分に見ていないなら、話はそこからだろ、10年早いということになる。

 勉強不足、経験不足の人は外見ろ、外。

 飽きるまで、腹いっぱいになるまで外を見たら、自然と内を向く仕様になっているのだ、人間は。それなら、意図的に「内を見よう」とするよりも、より自然でベターな流れでそれができる。



 経験がものを言うという言い方は絶対ではないが、ある程度は大事である。

 筆者も、心理学・哲学(中高生) → 新興宗教(大学) →既成キリスト教・聖書(社会人) → スピリチュアル、という流れで貪欲に求め、学んできた。求めるという行為それ自体が悟りを招くわけではないが、何が幸いしてトリガーとなるかは分からない。だから、人の成す一切のことは無駄だとは言いきれない。

 だから、何事もやってみること。経験して、感じてみること。そこからしか、意味のある考察など生まれない。

 ましてや、説得力のある人生訓など生まれない。

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