あきらめないと、そのうち試合終了ですよ?
『スラムダンク』というバスケ漫画の名作における名セリフ。
●「あきらめたらそこで試合終了ですよ……?」
確かにこの作品を読めば、このお話の背景ならば「あきらめないこと」が非常に重要だったということは理解できる。このケースではもちろん、「あきらめないことが正解であった」。
しかし。単純にこの言葉を普遍的な人生訓(真理)として、どんな時にでもこの「あきらめたら試合終了」を掲げて生きたら苦しくなるのは、皆さん分かると思う。筆者が本書で読者が飽きるんじゃないかと思うくらい言いまくっているから。
●すべての物事には、人・場所・時間・状況の違いによって、いくつもの答えがある。
人生には、場合によっては「あきらめないと試合終了」になるケースもある。
例えば、一度始めた習い事が、苦痛になってきた場合。正直な気持ち、一時ほどの情熱を注げなくなった場合。
あけすけな人なら、「やめる」と平然と言ってのけるだろう。それでやめて、何の問題も残さない。多少は粘り強さや根気が育つといいね、アハハと苦笑いする程度で済む。
大変なのは、空気を読む力がありなおかつ優しい、真面目な人である。
子どもなら、最初やりたいと言った時に許可してくれ、月謝も払ってくれる親に対して、ちと言いだしづらい。一応、世の中で推奨されるのは「簡単にあきらめないこと、投げ出さないこと」であるとは学習しているので、ナイーブな子なら「好きで始めたことを途中でやめたくなる自分が悪い」と考える。
で、もうちょっと頑張ってみようか、となる。
もちろん、それである時世界がパッと開けて、その道で大成する場合もまれにあることは認める。
しかし、多様性に満ちたこの世界の可能性は、それが苦痛続きにしかならない場合も存在させる。いや、むしろそのケースのほうが多いんではないだろうか。それは、単純にその人物のせいではなく、そういう人生シナリオの担当なだけだ。
これが子どもでなく大人なら、自分でお金を払っているケースがほとんどだろうし、金銭的な面での気がねはないにせよ、「プライド」「メンツ」といったものが重要になってくる。
「あの人は、始めたけど結局やり遂げなかった」と思われることを勝手に想像して、意地を張ってやめられない場合もある。心はもう離れているのに、対外的なものを気にして引っ込みがつかなくなっている。
だから、あきらめたほうがよいという場合も明確に存在する。
そこで、「あきらめたらそこで試合終了」という言葉は、ちと補足がいる。あきらめる対象が何かによるのだ。
たとえば、具体的何か。(スポーツ・習い事・具体的成果の分かる目標)これは、時としてあきらめることがよい場合もある。
心が離れているのに現象だけ「あきらめない」状態を続けても、苦痛が増す。だから、普遍的に「あきらめちゃいけない」ということが成り立つのは、次のケース。
●『体の芯に違和感のない、奥深くの聖域が騒がない納得』を得ることをあきらめない。
たとえば、スラムダンクのケースで言えば、かなり厳しい状況の中で現実的には表層意識で「あきらめたい、投げ出したい、どうでもいい」という状態だったが、それでもやっぱりバスケがしたい(奥深くの聖域では、実はあきらめたくない)に謙虚に気付けたとき、道は開けた。
しかし、人生では時として「あきらめない」ことが万事いいことだとして、「心の奥深くでは手放したいし、続けることに黄色シグナルをそれとなく点灯している」のにもかかわらず、その奥底にフタをして表層意識的に「頑張ろう」とするのは、たとえあきらめなくてもいつか試合終了になる。
ユダヤ教(旧約聖書)には、神殿という宗教施設が登場する。
神殿の中には聖所と至聖所というのがありまして、聖所というのは祭壇の外側に相当し、出入りできる人も多いが、「至聖所」という中心には、年に一度とかいう大袈裟さで、しかも祭司職にある者しか入れない。(しかも祭司なら誰でもよいわけではなく、その年に選ばれた特別な一人だけ。祭司オブザイヤー、みたいな人限定)
筆者が言う「奥深くの聖域」のシグナルに気付けるためには、ある程度鍛錬された精神である必要があり、日常目先の得を追い、その場その場の「反応」で惰性的に生きていたらその声を採用することは困難を極める。
惰性的に生きる、というのは何も怠けて仕事もせずブラブラ生きている、というイメージで考えてはいけない。日々忙しいスケジュールで頑張って生きているように見えても、惰性で反応して生きているというのに当てはまるケースもあるから。
●あなたは、たとえ年一度でも、ちゃんと自分自身の至聖所で礼拝しているだろうか。自分のそこを、覗けているだろうか。
あきらめちゃいけないのは、具体的な何かではない。
自分の至聖所を覗き、その願い通りにすることをあきらめちゃいけないのである。
その結果、現象として何かを続けることも、やめることもあるというだけである。
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