第3話「やるしかない!!」

「頼む。応急処置だけで良いんだ。このままじゃダメになっちまう」

「でも私が守護精霊と契約したのは昨日だよ。何が出来るかもわかんないし」

「修行はしてるんだろ!? 他の所じゃ応急処置も断られたんだよ」


 目の前で冒険者が何度も頭を下げている。そりゃ、普通核が割れたらおしまいだもの。

 それだけの一撃を防いで命が助かったのならそれで良しってなるところだし、点検と修理くらいの人だと下手に弄るのは怖いだろうし。


 でも、職人の娘としては放っておきたくない。それも自分が職人になれるかもしれない技術に触れられるんだ。

 これまでお父ちゃんの作業を手伝って来たし、将来その技を継ぐために基礎も勉強して来たけど、自信は正直ない。


「……核を取り換えて、仮接続で魔力を流しながら傷に対処出来ればいけるかもだけど、核の在庫がない」

「あるぞ! 核になりそうな魔石ならここに!」


 冒険者が興奮気味に鞄から取り出したのは白石化した手のひら大の心臓だった。それを素体の隣に置くと、身を乗り出して更なる説明をし始める。


「オオグレトカゲの心臓だ。なかなかの大物だったんだ。これなら何とかなるだろう!?」

「浄化は?」

「してある!」


 モンスターの魔石化した心臓、は最上級の核に成りえる素材だった。魔力で生きる生物の心臓。

 魔力を溜めて流す核には最適で、正直仮接続に使うのは勿体ないほど。死んだ時にどの部位が魔石として安定するかは運なので希少品だと聞いていた。


「わかった。やってみる」

「おお頼む! 手伝えることは何でも言ってくれ!」

「とりあえず奥へそれ運んで。一度じっくり見ないとわかんないし」


 やると決めて手順や方法を考えていると、ペコが前脚で魔石化した心臓を抱え上げ、きゅっ! と鳴いて店の奥へと運んで行った。


~~~


 店の奥で作業台にクロスを敷き、そこに破損した素体と心臓や各種素材が入った壷や瓶を並べて置いた。脇でペコにお湯を沸かしてもらいながら、私と冒険者は口元を布地で覆って立っている。


「で、俺は何をすればいい?」

「ちょっと待ってよ」


 お父ちゃんは革素材に焼き入れで装具を仕立てるけど、これはどこも違う。大量のガラス、かな。でも溶かして核を閉じ込めるとなると核が焦げてしまうし、接続点がわからない。


 透明な本体の中心にある核は白い卵型のもので、亀裂が入ってしまっている。よく見れば核の受け皿のように少し色が違う部分も。


「あ、これ砂じゃん」

「砂?」

「核を砂で包んで、外側を水と土と火の術でガラスにしたんだ。凄い」

「火もかよ」


 三つの複合で練り上げたガラスもそうだけど、本体をガラスにすることで色んな形態に対応させつつ、保護したまま核に魔力を送れて、かつ砂を仲介することで機能面も損なわず成立させている。


「卵なんだ、これ」

「どういうことだ」


「普通、素体って形を守護精霊に合わせて調整するし、一代だけでなく補修しながら受け継いでいくけど。その度に調整しないとだし、核は守護精霊が触れるため完全に覆うことは出来ないはずなんだけど、卵をモチーフにガラスで仕上げることで両立してるんだ」


「つまり?」

「この人、凄い。卵、ならほぼ全ての守護精霊に対応できるもん」

「いや、直せるかって話は!?」


 感心してる場合じゃなかった。これなら砂、に付与された術が死ななければ良いはず。

 外への発露はガラス部分で固定化しているからお父ちゃんが帰るまでは持つし、核を交換して砂部分の保護。ここが失われると、ガラス部分との接続も死ぬから致命的になる。


「砂部分が大事だから、ガラスを開いて砂を零さないように核を交換すれば、理屈上はいける」

「そうか!」

「でもガラスを柔らかくしつつ焦がさない火がない」

「火、ならうちのが火特性だ。装具がないから高火力は出せないが補助くらいならいける」

「方針決まり。ペコこっちにお湯持って……来れないか流石に」


 前脚でどうにか鍋を運ぼうとするペコを見て思いなおす。それは危ない。まずは湯と魔粉で心臓を核に加工しなければ。

 心臓のままだと出力が偏るから、削って湯で練った魔粉でコーティングして、熱入れして安定させて……。

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