魔法少女と未来少女
「あそこだ!」
硬直するセシールに追い討ちのような喚声が轟く。ロドルフが樽を脱ぎハーメルンで新調した自分の装備を着直し、武装した騎士たちも率いて戻ってきたのだ。
彼は生身でありながらクロードの巻き添えで飛ばされたものの、偶然馬小屋に積まれた藁に落ちたため助かった。そこで樽が割れ、操り人形状態から復帰した人々の救護に当たっていた騎士たちにことの次第を説明、伴って引き返したのである。
たちまち、妖精少女は数十人の兵力に包囲されることになった。
ロドルフが感謝する。
「異国の魔法使い殿、ご苦労さまでした。もう結構、彼女にはオレ様が対処します。かつての戦友でもありますからね」
さらに、友へと勧告した。
「セシール、おまえのこともできれば敵にはしたくはない。降伏してくれないか、これでは勝算もないだろう」
「……いいえ」
そこで、セシールは不敵な態度を復活させた。
「もとより、優秀な戦士が集結する大会。妨害は考慮していましたよ」
大地が怪しく輝き、再度揺らめいた。セシールを守護するように、無数の妖精――
オーガはもちろん、それを小振りにしたような
様々な人外の特徴を備えた異形たちである。
「魔法円を変更したと教授したはずです」
魔物たちと戦わざるをえなくなる騎士たちに、セシールは種を明かす。
「仲間の召喚もできるようにしておいたのですよ。街を壊滅させる魔法が発動するまで、時間稼ぎができるほどにはね」
「どうかしら」
緊張しながらも、スミエは挑戦する。
「さすがに、あたしがいたのは誤算でしょうね! ――ゼノンドライブ、ちょこっと解放!!」
未来少女は目視できないほどの速度で地を削ぎつつ、妖精少女に突進した。
いちおう相手はクロードの友人だし、できれば戦争はしたくない。だから、漫画などの知識から峰打ちを狙った。
ところが。
スミエの手刀は、セシールに通じなかった。平然と体表で受け止め、まるで身動きもしない。
「……いったーい!!」
ややあって、スミエの方が殴りかかった手を押さえてぴょんぴょん跳ね悶絶する。妖精少女の肉体はとてつもなく頑丈だったのだ。
セシールは涼しげに自らの肢体を紹介する。
「人界に溶け込むべく、わたくしが与えられた
彼女の身体は白熱し、紅の色彩を纏いだす。
「得意な灼熱の魔法を応用すれば、熱をよく通す金属に似たわたくしには触れることもできなくなるでしょう」
「む、むかつくわね」
溢れる熱気にたまらず数歩後退するも、スミエは憤る。
『――ちょっといいかしら、あたくしよ!』
そこに、スマホが割り込んできた。慌てて出る未来人。
「ど、どうしたの、アンヌさん?」
『着任して早々申し訳ないけど、妹たちの業はすぐ完成しそうよ。捜索範囲が広すぎて、もっと改変された箇所に目星をつけないと間に合いそうにないわ。的を絞れる情報はない?』
早めに言ってよ、と内心ツッコむもスミエは悩む。すると、ある閃きが脳裏で明滅した。
「……そうだわ」
そこからは、全容をセシールに盗聴されないよう小声で伝達する。
「悪あがきを」妖精少女は余裕だった。「あなたが酔い潰れている間に細工をしたのですから、的確な助言などできないでしょうに」
「さーて、どうかな」
スミエは通信を切り、スマホをしまって哀れんだ。
「自分の心配をしなさいよ。そこまで強情なら本気になるわ、そしたら敵わないってトーナメントで学んだはずでしょ」
「ええ、学習しましたよ。あなたの弱点もね」
睨み合う二人。巻き起こったエネルギーの大渦が、少女たちの狭間で火花を散らしだしていた。
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