第2話 その二

 可哀想に。

 危険そうなのには近寄るべきじゃないな。

 君子危うきに近寄らず。

 知らない人だし、まあいいだろう。

 通り過ぎようとして、男と目が合った。

 いかにも助けてくださいと言わんばかりの顔をしている。

 視線を外して、知らん顔をする。

「ちょっとそこのお方」

 無視を決めこむ。

「こんなことになるなら姫様のお使いなんて頼まれるんじゃなかった」

氣落ちした声で男は嘆いた。

 くるりと体を転じて、囲まれている男の元へ行く。

「お前さん、宮殿の人かい、よければ取り次いで欲しいんだけど、どうかな」

 なぜ男の態度が急変したのか分からぬまま、助けてもらえるならいくらでもと男は答える。

 黒髪の男はにんまり笑顔をつくってから、右に短刀を、左に刀の柄手前の鞘の部分をもった。

「逃げるなら今のうちだけどどうする」

 五人の男たちは嘲(あざけ)るような笑い声をあげる。

「五対一だぞ、どう見てもそっちが不利だろうが」

 一人がそう言うやいなや飛びかかってきた。

 降り下ろされた一撃を、短刀と鞘に収まった刀で受ける。

 そのまま受け流して、体制の崩れたところを刀の柄で喉をドンッとついてやった。

 トドのようなうなり声を上げ男はその場に崩れ落ちる。

 一人の男に続いて、二人の男が攻撃を加えようとしていた矢先のトドの叫びだ。

 動きが止まっていた。

 その一瞬を見逃すはずもなく、一人にはみぞおちに一人にはこめかみに強烈なのをおみまいして、数秒の内に二対一にまでなっていた。

「さあ、どうする?逃げた方がけんめいだと思うけど」

 二人の男は顔を見合わせてからうなずき合い、倒れている男たちを引きずりながら去って行く。

 その光景を見ていた宮殿の人間は思わず拍手をしていた。

「すごい、すごい、とてもお強いんですね。姫様の護衛に欲しいくらいだ」

「そうそう、それだよ、給金がすこぶる良いって聞いてさ、それに志願しようと思ってきたんだ。案内しておくれよ」

 町をすぎ宮殿への最初の門を抜けてからの距離に度(ど)肝(ぎも)を抜かれた。一時間は歩いたであろうか。

本来は馬車で行くんですよと言われたが、地理を把握しておきたかったので歩きたいと申し出ていた。こんなに歩くとは思っていなかったのだ。

 延々と石で舗装された道を歩いている。

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