狐の恩返し
望月 葉琉
九の村編
いちは、男の子を拾う
第1話
「えーん、えーん!」
昔のいちはは、泣いてばかりいた。
「うるせぇ、疫病神!」
「あっち行け! この狐野郎!」
物心ついた頃には既に罵られ、蔑まれ、石を投げられる生活だった。
「ずる賢い女狐だね! 飯でも盗みに来たのかい!?」
――ちがうもん、そうじゃないもん。
――おねつがでてくるしいひとがいるって、きいたから……。
――ねつさましにきくはっぱ、とってきただけなのに……。
恐ろしい顔をする村の人々を前に、本当のことを言えないまま、ただ殴られる痛みに堪え、口を閉ざして涙を流す。
結局薬草を渡せないまま家に逃げ帰ったいちはは、布団にくるまり、嗚咽を漏らす。
いつからだろう、そんないちはのもとへ、優しく声を掛けてくれる存在が現れたのは。
「いちはちゃん、いる?」
ギィ、と扉を開け閉めした響きの後、室内に入ってくる足音。ぎゅっと掴んでいたはずの掛け布団を難なく剥ぎ取り、その青い瞳は見つめてきた。
「また泣いてる。目が真っ赤だよ」
鼻をぐすぐす言わせながら、いちはの黒い目もまた、その瞳を見つめ返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます