第69話 店長、また来ます!!

「お待たせいたしました。ご注文のカットオレンジ、アケビの実、ザクロの実でございます」

「ありがとうございます」

「それでは失礼させていただきます」


 そう言って個室から退出する店員から、レストが机の上で貰った皿を3つ並べてほくそ笑む。

 中途半端に開いていたメニューを操作し、落ち着く為に注文して食べていた山葡萄の種を【宝物庫】にしまう。


「それで、頼みたい事って?」


 トラウマによりパニック状態に陥って、自身が何を口走っていたか分かっていないレストが言った。

 レストの平常運転過ぎる行動を見て、すっかり平常心に戻ったアリスは思う。


(…レストは天然だった)


 まさにその通りだ。

 あの後に山葡萄を食べた時の思い付きで、食堂のメニューにある種付きで提供される品を注文し、食べた後に種をしまうという素材集めを始めたのだから。


「……はぁー。少し待って」


 アリスは2杯目のミルクで口元を隠して、何とも言えない複雑な気持ちをため息で吐き出した後、メニューを操作する。

 レストはいつも通りとして、アリスも気付いてないが、これはシステムの穴を付いた素材集めである。


 食堂の仕様として、提供された品の皿やコップと言った備品は店側に所有権があるが、出された食品には相手側に所有権が移り、店を出る時に皿上の残ったモノは店側に所有権が戻るというものだが。

 レストは自身に所有権がある間に、残り物として処理される筈の食物の種をしまって、本来実を買うか、フィールドで実を入手するしかない方法のない種を、手に入れるという裏技だ。

 この裏技を使えば、提供された料理を持っている皿や器に入れて我流テイクアウト、つまり店の料理をタッパに詰めるみたいなことができる。

 これにより、レストは実質半分以下の値段で種を入手した。

 大画面の1ヶ所にレスト専用として固定され、観戦している運営たちが感心しながらも、次のメンテナンスでどのように仕様変更するか話しているので、今度来ても使えない裏技だが。


 あの現場を見られたことに気が付いて無いアリスは机に5つの石を取り出す。

 一瞬硬直した後、さらに取り出した。

 緋色のつばが広い羽根つき帽子、襟が立った緋色の半袖コートの内側にフリル付きの白い長袖のカッターシャツの服、金色の金具付き白いベルトが巻かれた緋色の短パン、膝より高い緋色のブーツ、短パンより長い背後から2枚突き出た緋色の三角の腰布。

 まるで、ファンタジーの世界にありそうな女剣士の服を何度もアリスと見比べて、レストは思わずポロっと口から出る。


「もしかして、アリスってコス「…シャラップ!!」……」


 勿論、コスプレ的なことを言うと予測していたアリスは、被せ気味に発言をした。

 それに、剣幕で圧倒されたレストは黙るしかない。

 すると、唐突に優しい表情を浮かべたレストが告げた。


「大丈夫アリス。どんなアリスでもこっちは受け入れるから」

「…受け入れないで!!」


 身を乗り出して来たアリスが、レストの肩を持って大きく揺さぶる。

 だが、レストは笑顔でサムーズアップを決めた。


「大丈夫。人の趣味はそれぞれ。口を出したりしないよ」

「…違うから。そういう趣味じゃないから」

「分かってるってアリス」


 どんなに否定しようとしても笑顔で肯定したふりし、終いには似合うよと言ってくるレストに、等々限界を迎えたアリスが剣で叩いて記憶を飛ばせないかブツブツと言い出した。

 それを見て、慌てた様子でレストがネタばらしする。


「それって、プレミアム引換券の“緋色の軽剣士セット”でしょ」

「……もしかして分かってた??」

「うん。でも、折角だからいつぞやの借りを返そうと思って」

「…いつぞや??」

「悪魔って斬りかかってきた時の」

「……くっ」


 レストが言っているのは、丸焼き実験をしている時のことだ。

 あの時、アリスが悪魔と言って斬りかかって来たことは忘れまい。


「それで、この服が頼みたい事と何の関係が??」


 置かれた服を鑑定しながら、レストは言った。


名称:緋色の軽剣士セット

種類:セット装備 品質:1

耐久値:300/300 重量:4

効果:防御力+20、移動速度上昇微。譲渡不可。

セット効果:敏捷+1。

参考:支給品。頭、体、足、靴、装飾のセット装備。


 自身のセット装備以外を見たレストの感想は、これが普通かー、と自身のセット装備がどれだか壊れているか理解した。


「効果に防御力+24と移動速度上昇微。セット効果に敏捷+1か」

「…そう、うん??…待って」


 頭を傾けどうしたのといった表情をしているレストに、とある事に気付いたアリスは頭を抱えながら話す。


「…レスト、普通は他者が持ってるアイテムを鑑定出来ない」

「……あっ」

「…それに鑑定した筈なのに操作画面が出てない」

「本当だ…」


 アリスが商人でもないのに、レストは所有権を持ってないアイテムの鑑定に成功している。

 さらに言うと、本来ならメニューなどの操作画面お同じように現れる筈なのに、今見えている鑑定結果の画面はHPやMPが映る視界内に現れていたのだ。

 それを指摘しているアリスの尊敬度を上げながら、何が原因か分かったレストは口に出す。


「これ、多分だけどレジェンドスキルの隠し効果の影響だと思う」

「……………それバレないように」

「分かりました」


 椅子を深く座って、天井を見上げるアリスが印象的だった。


「…装備強化して欲しい。もちろん報酬は払う」

「それは別に良いけど…」

「…報酬はあとで渡すから」

 

 アリスは5つの石と軽剣士セットをレストに寄せた。

 それから視線を外したレストが、少しの間を置いて、頬を掻きながら聞いた。


「えっーと。装備強化する方法って??」


 この時、場が凍った。

 それから数分経って。


「今からやるね」

「…それで大丈夫?」

「問題ない」


 アリスから生産プレイヤーなのに知らないの、という視線を貰いながら説明されたレストは実行する。

 使う材料はイベントで貰った強化石と、強化したい支給品の装備。

 それに、見合った【錬金】スキルと錬金釜で必要である。

 やり方は単純で、支給品の装備を簡易錬金セットの錬金釜に入れた後、必要な数の強化石を追加して合成するというものだ。


「ユニークスキルの効果で2段階強化に成功しました」


 笑みを浮かべたレストは、ピースサインを決めた。

 それにアリスは拍手で応え、軽剣士セットを鑑定する。

 その結果、レストの装備を除く繊維系装備で上位に入る装備へ変貌していた。


名称:緋色の軽剣士セット(+2)

種類:セット装備 品質:3

耐久値:500/500 重量:4

効果:防御力+40、移動速度上昇微、体力減少軽減微、敏捷+1。譲渡不可。

セット効果:敏捷+2。

参考:支給品。頭、体、足、靴、装飾のセット装備。


 それに、銅装備から軽剣士装備に変えたアリスは、羽根つき帽子で顔を隠しながら、感謝を伝える。


「…ありがと」

「こっちも色々知れたから、気にしなくていいよー」


 ちなみに、知れた事とは装備強化の事もあるが、【錬金の秘法】が他の秘法スキルと違う効果だと分かった事だ。

 加工しないアイテム同士を合成することもあるので【錬金の秘法】は、素材半減ではなく完成品の数が2倍となる効果と知れた。

 他にも、


「耐久値回復したい時に言って、【錬金】スキル使えば出来るみたいだし」

「……そんな事まで」

「まぁ、偶然分かったんだけどね。スキルと装備によって必要な材料が変わるし、耐久値の最大値が低下したり、防御力が低下したりする可能性があるけど」

「…そう」

「あと、装備修繕は普通の装備も対象みたい」

「…その時はお願いするかも」


 装備強化と同時にレシピに追加された装備修繕の存在だ。

 両方、強化や修繕をすればするほど成功率が下がるが、【万物の創造者】を持つレストには関係無い。


「これからどうする?」

「…ちょっと行きたい所がある」

「こっちも何ヵ所かあるから、そっちも行って良い??」

「…いい…あと、色々店に行く」

「新しい素材があるかも知れないしね」

「…レストの常識を教えに」

「ぐっはぁ!!」


 レストが種の回収を終え、個室を出ると、二人が見たのは満員の店内と行列だった。


「もしかして、店長の機嫌が良かったのって、これじゃない」

「…多分」

「今日に限って何でだろうね」

「…知らない」


 子供が見たら泣きそうな怖い顔の店長に、子供が号泣しそうな笑みを浮かべながら、何故か無料でテイクアウトの特製サンドイッチを貰い、二人はそのまま出て行く。


 肝心の所を分かってないレストとアリスでした。

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