第68話 何か想像以上に食堂回が続いてしまう

 二人は食堂の備品を壊したが追い出される事はなく、何故か妙に優しい店長の温情で、机の弁償代と料理1品以上の注文で許してくれた。

 なので、レストはステーキセットとさくらんぼ、アリスは鮎の塩焼きとカットピーチとミルク、テイクアウトの苺ジャムパンを頼んだ。

 それを新しい机の上で食べ終わり、さくらんぼの種を【宝物庫】へ入れたるレストは、あることに気が付いたので問う。


「そう言えば、わざわざ個室を取ってまで話したい事って??というか、個室の料金割り勘にした方がいい??」


 食堂やレストランなどには、追加料金を払うことで、防音効果のある個室を借りることが出来る。

 そのお陰で、秘密の多いレストは外に音が漏れない個室だったから、安心して話せていた。

 でも、話したいことがあるとアリスが個室を選んだ理由に、レストは見当つかないので、自身も有効活用した個室の料金も合わせて聞いた。

 それに、鮎の塩焼きを食べていたアリスは、口の中の物を飲み込んで答える。


「…色々儲けたから個室分はいらない」

「あー、今回のイベントクエストの報酬か」

「…それ以外にも冒険者ギルドのクエストでほとんど納品した」


 それを聞いてレストが頷きながら、【万物創造】で増やせる暴獣素材を納品して、今の内に稼ごうかなと思った。


「こっちも冒険者ギルドで納品しようかな」

「…あのスキル使って増やす??」

「いや、手持ちの分だけ納品する…まぁ、もの作る時には使うけど」

「…あまりにも大量に持っていると怪しまれるから、その方がいい」


 アリスは頷きながら賛同した後、鮎を一口食べる。

 それを噛みながら、話す内容をまとめてから言った。


「…個室にした理由だけど」

「うん」

「…縁の指輪で行ける精霊界についてと。レストに頼みたい事と、ちょっと有名になりすぎたから」

「あー、勇し、アリスは有名だもんね」


 勇者と発言しそうになったレストは、アリスから視線を外し、慌てて訂正する。

 それにジト目を向けながら、自覚の無いレストに、アリスはため息を吐いた。


「…レストも有名」

「あー、もしかしてマッドネスウルフの討伐者でかな」

「……違う」

「…………まさか!?」

「…分かった?」


 レストが戦慄した表情で言う。


「さっき凧揚げしてたのがもう広まったのか…」

「…違うから」


 即座に否定したアリスは、レストの素で言っている様子に、さすが天然と誉めているのか、呆れているのか分からない感想を抱いた。

 それから、レストに公式動画とランキングと掲示板のことを説明して、最後に、


「…なんか、私の弟って勘違いされてる」

「どうしたの、アリスお姉ちゃん??」

「……レスト」

「すみません。調子乗りました」


 アリスの弟とされている事を説明した。

 ここ3日間、もの作りで頭がいっぱいだったレストは知らなかったのだ。

 まさか、見逃していたランキングで幾つものトップを独走しているとは、公式動画であのシーンを使われているとは、自身の掲示板が作られているとは。

 だから、緑園の草原で凧揚げしていた時や街の中で妙に視線を集めていたのだと納得した。

 あと、弟とされることについては、アリスに時々お姉ちゃんと言って困らせよう、と企んでいる。 

 ランキングを見て黄昏ているレストを見て、アリスはあることを思い出した。


「…そうそう、掲示板でレストの二つ名募集してる」

「えっ、マジか。どんなの??」


 誹謗中傷を書くイメージがあるので、レストは掲示板を見ない。

 本人預かり知らずのレストの掲示板を見ているアリスは少し考えた後、敢えて印象的なものを言う。


「…テロリストとか、投爆機とか、未確認生命体とか」

「何、その不安になるラインナップ」

「…でも、どれも何か違うという理由で決まってない。現在はあのプレイヤーかあの人が主流」

「神よ、このままそれが定着しますように」


 突如祈りだしたレストを見て、アリスは濁った青い瞳を向けて祈る。


「…神よ、私以上の羞恥心溢れる二つ名が付きますように」

「めっちゃ怨念籠ってるぅ!!やめて、神様それ受諾しないで!!このまま定着させて!!」


 抑揚のない声音が怨嗟の声となり、絶望を知る者特有の単色の瞳を閉じ、ひたすら願う勇者が居たとか。

 それを必死に願いの上書きで消そうとする子供が居たとか。



 何かに取り憑かれていたアリスが、全ての料理を食べ終わった頃。


「それで精霊界と頼みたい事って…」


 妙にぐったりとしたレストが、話を戻すように聞いた。

 ちなみに、祈りを中断させた方法は「食事冷めるから、戻ってぇーアリス!!」である。


「…精霊界はベア…エルフの人が言っていた」

「ベアトリスさんね」


 いつも通りに戻ったアリスに、レストはほっとした気持ちで修正を入れた。


「…その人が言っていた精霊と会う方法は、レストから教えて」

「精霊に会う方法って、精霊界に行ける縁の指輪か古き緣の指輪の入手法?」

「…そう。レストが見付けたから」

「別にいいけど、報酬はアリスも半分だから」

「……欲しがったら、全部貰ってもいい」

「いや、半分でいい」

「…分かった」


 多分そう言うだろうな、と予想が付いていたのでアリスは頷いた。

 レストが「頼みたいことは?」と聞いて来るが無視し、メニューを操作してメールを送る。


「…まだある。メール見て」

「えっーと………『精霊界に明日行かない?』」

「…これ、14日に送るはずだった」

「あーごめん」

「…別にいい。それでだけど、今日行かない?」

「行かせていただきます」


 メール画面を開いたまま、レストは頭を下げた。


「…分かった」


 それに頷いたアリスがメニューを閉じようとする直前、あることを思い出す。

 14日に遠隔譲渡された剣だ。


「…ねぇレスト」

「どうした??」

「…14日に届いた剣って??」


 この時、レストは全身が冷たくなる感覚に襲われ、背筋を伸ばして答える。


「いや、あの、その」

「…言えない理由でもある??」

「いえ無いです。理由ですが、アリスの好みの形状を忘れない内に作ろう、と思って作ったやつです」

「…ふーん?」

「それで、アリスに2本渡してたけど、今度いつ一緒に行動出来るか分からないから、会ってない内に使い切ってそうだなと思って…」

「…思って?」

「他者のを使われるのが嫌だったので、6本作って送りました」

「……そう」


 怒られたあの日を思い出し、顔を俯かせて、脳内でパニックを起こしているレストは正直に答えた。

 そう、正直にである。

 大量のメールが届いたあの日を思い出し、わざとメール送れない場所に居たのでは、と疑ったアリス。

 しかし、アリスは机に突っ伏してた後。


「…恥ずい」


 と殆ど何を言っているか分からない言葉を口ごもる。


「それでですね。折角だから色んな種類送った方がいいかもと考えまして…」

「……」

「使ってない暴獣のドロップアイテムで作りました」

「……」

「選んだのは、攻撃力が上がりそうなのと、耐久値が高くなりそうなのと、毒に出来そうなのです」

「……」

「使った素材が良かったので、目的の効果が付き、それを送りました」


 アリスは突っ伏してたまま、レストは何かを弁明し続ける。

 なお、この状況は5分以上続いた模様。


────────────────────


なんか食堂回の全話、レストが自爆して、それにアリスが巻き込まれている。

久しぶりにアリスと会ったから、3日間一人だったレストはテンション上がっているという解釈でお願いします。

何故、こうなった…

あれです。

レストが勝手に自爆しました。

登場人物が勝手に動くってやつです。

あと、食堂回が長過ぎますね。

次回で食堂回を終わらせます。


これからも楽しんで行ってください。

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