第43話 レストも歩けば

 夜となる前に、二人は休憩を挟みながらも、マッドネスモンキーをもう一度倒すことに成功した。

 アリスの発案で、モンスターに襲われることのないボス部屋で二人ともキャンプを設置して、二人はそれぞれの理由でログアウトする。

 そして、レストが17時前の早い夕食とトイレを終え、ログインすると。


「…ごめん、急にお母さんが食事行こうって。だから、もう出来ない。本当にごめん」

「気にしなくていいよ。楽しんでおいで」


 本来なら精霊の森へマッドネスウルフの下見を行く予定だったが、アリスに急用が入り、延期となった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいのアリスに、気にしてないレストが宥める。

 ゲームよりも現実を優先するのはあたりまえで、突然の予定だろうと家族行事があるなら、なるべく家族の方を優先した方が良い、とレストは思っているから。


「…レストはこれからどうする??」

「時間があれば行こうと思ってたさざなみの湖で、マッドネスタートルに挑戦してみようかな」


 もちろん、ドロップアイテムが目当てです。


「まぁ、22時までやってダメだったら諦めるけど」

「…硬い相手らしいけど、レストの爆弾なら勝てると思う」

「でも、使う人がしょぼいからなー」


 レストの中ではいつの間にか戦闘プレイヤーの基準がアリスとなっており。爆裂玉の威力が高いが、その他の技量が児戯に思え、戦闘に自信の無いレストは、頬を掻きながら苦笑する。

 そんなレストを見て、防御力や身体能力に気づいてない可能性が浮かび、色々自覚が無さすぎるレストにアリスは戦慄した。


「まぁ、頑張ってみるか。じゃあ、もう行くから。また明日!!」

「……またね」


 いつまでも話してたらログアウトの邪魔になるだろうと思ったレストは、アリスに別れを告げる。

 戦慄で反応が遅れたアリスが慌てて返事すると同時に、レストが手を大きく振って消えた。


「…今度、教えなきゃ」


 アリスはレストのポンコツ具合に、ため息を吐く。

 店巡りさせた時、それとなく教えようと決めた。

 瞬間火力ならトップクラスだと自負しているアリスと同等以上の攻撃をできること。

 マッドネスモンキーの攻撃すら殆ど通さない防御力を持つこと。

 戦闘プレイヤー並みの身体能力を持つこと。

 求めた瞬間この関係が終わると確信しているから言わないが、欲しいぐらい作ったアイテムの性能が異常なことを。


「…あっ、待ち合わせ決めてない」


 テントに入ってログアウトボタンを押した直後、待ち合わせ時間を決めてないことに気づいたが、アリスはそのまま現実に帰還した。



「暗くて全然見えない…」


 レストがボス部屋から出て、マップを片手に見た進むための山道は、僅かな光があれば見通すことができる【夜目】ですら見えない、光なき暗闇。

 唯一の光源となるのは、背後のパーティが置いた焚き火のみ。

 このままでは、さざなみの湖へ向かうことが出来ない。


(なら見えるようにするか。モンスターが来る前に)


 遠くを見るために凝視するのと同じで、【気配察知】や【視線察知】は周りを感覚的に知ろうとして使える。 

 【採集】も同じで、レストは目をこらす感覚で使う。


(見えた)


 【伐採】の獲得で増えた、【採集】スキルの採集物を表すアイコンを頼りに、一番近い大樹へレストは近づく。


(やっぱ木か)


 触れて木か確かめた後に、再び離れて分の距離を開け、【宝物庫】から取り出した爆裂玉を投げて爆発させる。

 自動回収されることを知らせるログと同時に、今まで遮られていた月明かりが入ってきた。


「行けそうだし、行くか」


 今回のマッドネスモンキーで学んだ大樹の爆破による、自身の有利な環境作り。

 それによって出来た、無理やり折られたかのような大樹の生えた場所は、月明かりで照られ、【夜目】で周囲が分かるようになった。

 照られた場所に入ったレストは、さざなみの湖の方向にある、見えるようになった大樹目掛けて爆裂玉を投げ、道を作りながら進む。


「どんどん数が減ってくるな…」


 大樹の爆破以外にも、モンスターの遭遇や夜の襲撃に使い、短時間で100個以上の爆裂玉が減った宝物庫を見て、1000個以上作っておいて良かったとレストは思った。


「方向こっちだよな」


 一々メニューのマップと【宝物庫】を交互に変えるのがめんどくさくなったレストは、マップで方角を確認した後、【宝物庫】だけを開いたまま、山を下り始めた。

 そして、30分で出られるはずの山を1時間経った現実時間の18時過ぎ。

 低い位置にあった欠けた月が真上で輝くなり、夜から深夜となる頃。

 素材集めに精を出し、鼻歌歌いながら進んでいたレストは、


「えっと…何ここ??」


 不思議な場所に迷い込んだ。

 目の前には、月明かりで照られる細かい装飾がされた石造りのアーチと壁。上の部分や他にも所々が壊れ、苔や蔦が付き、古びたといった表現が合う。


「おぉーお遺跡みたい!!」


 冒険心をくすぐられたレストは、視線をアーチからアーチの先へ移すと、半径2メートル程の夜空と若木を映す小さな泉。

 泉の中心に土が隆起し、若木があった。


「……あれ、これ、もしかしてやってしまったパターン」


 早くも悟ったレストが見たのは神々しい若木。

 全長2メートルと少しの広葉樹。

 だが、枝も葉も、それどころか全体が淡く金色の光を放っている。

 しかも、等間隔に色取り取りの八つの実が成っていた。緑、青、赤、黄、紫、橙、紺、桃の色付きクリスタルのような細長い八面体の実という、ファンタジー要素がこれでもかと出た実。


「取り敢えず、入ってみるか…」


 悟ったが好奇心が抑えられず、レストがアーチをくぐった瞬間。


『常闇を照らし、たどり着きし…神に近き者よ。汝に一つだけ好きなものを授けましょう。だが、もし、汝が欲深き者であれば、得るものは何もなく、災いが起こるでしょ』


 若い少女のようなでありながら、厳かな声音が響く。

 周囲には何もいなく、中心の若木が風も無いのに動いたことから、レストは若木の声かなと考えた。


「つまり、この実の中から好きに1つだけ選べるってことか」


 、それを見たレストの目は見開く。

 慌てて他のも確認して、思わず叫んだ。


「やっぱ、そっち枠だったぁー!!」


 レストが貰えるのは永続的に能力値を1上げるアイテムという、シークレットコンテンツだった。

 それぞれ、緑色が生命の実、青色が精神の実、赤色が筋力の実、黄色が体力の実、紫色が魔力の実、橙色が耐久の実、紺色が敏捷の実、桃色が器用の実という名前で。使えば生命がHP、精神の実がMP、残りは名前通りの能力値上昇させられる。


「支給品だから【万物創造】出来ないタイプか…精神の実か器用の実かな……うん??待てよ、この泉の水って…やっぱりこれもアイテムだ」


 泉を見て、生命水の湧水と表示された情報で確信したレストは、ポーション瓶を使い入れようとしたが。

 入れた瞬間に暴散し、無くなった。


「マジか…もしかして、ポーション瓶がダメだった??」


 何となくそう思ったレストは、爆裂玉を作った過程で残った様々なポーション瓶を取り出す。

 その結果、数十個ある内の一つだけ暴散しなかったが。


『【採取の知識】を習得しました』

『【採集の叡知】を習得しました』

「………うわぁー」


 ダイアモンドクリスタルのポーション瓶という、“金剛龍の玉眼”と“水晶龍の大角”(これら以外も…)という見るからにヤバい素材で作れる、あの神殿で貰える最上級のポーション瓶を使って、初めて入れることに成功した。

 さらに、あれの系統だと想像出来るスキルを習得できる理由も、鑑定して納得できる中身だった。


名称:生命水

種類:食材 品質:10

耐久値:2000/2000 重量:2

効果:空腹100%回復。HPを3000とMPを3000回復する。状態異常を全回復する。3日間は治癒力上昇特、全耐性上昇特が付与。設置すると周囲にHPMP体力が毎分回復する。再使用時間は3日。


 もはや、伝説のアイテムと呼ぶべきもの。序盤で手に入れていいものではない。

 ちなみに、課金アイテムのレシピに必要な素材の一つだ。


「もう、これでいいや……【万物創造】できるみたいだし」


 持っていけるアイテムが一つと言われてたので、何も考えたくないレストは生命水に決めた。

 大切にしまった後、アーチをくぐる前に「ありがとうごさいました」といい、アーチから出た。


『欲無き者よ、汝には可能性と祝福を授けましょう』

『【豊穣】を習得しました』

『【栽培Ⅰ】を習得しました』

『【育樹Ⅰ】を習得しました』

「えっ!?生命水って選択肢になかったの!!」


 思考停止状態から戻ったレストが慌てて背後を振り抜いたが、そこにアーチは存在しなかった。


────────────────────

あれぇ??おかしい。

予定では、さざなみの湖に着いている筈だったのに、何故か色々やらかした感じになった。

でも、謎の安心感。

これこそレストだ!!ってね。

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