第42話 初勝利

「ほれ、次はそこだぁー」

「ギャァァァァァアア!!」


 15時中頃のボス部屋に、大猿の鳴き声が響く。

 だが、その声は威嚇するためのものではない。

 例えるなら、悲鳴を上げて必死に逃げるといった声である。

 マッドネスモンキーが叫びながら新たな大樹に跳び、着地した瞬間。

 今さっきまでいた大樹は爆発して幹は折れ、再び爆発すると幹は木っ端微塵となり、消えていく。

 それをマッドネスモンキーはチラッと見て、すぐに別の大樹へ移る。


「テガスベッター」

「ギャァァァア!!」


 ニコニコなレストが棒読みで振りかぶって投げ、大樹を爆発する。さらに、マッドネスモンキーが居ない無関係な大樹も爆発する。


「…もういい。レスト、こっち」

「今行く」

「…爆弾は??」

「しまったよー。じゃあ、

「…行ってくる」


 転けない程度に走ってきたレストは親指を立て、アリスを送り出す。

 二人の周囲には幹が折れた木だらけで、泥濘の原因だった頭上の枝葉も無くなり、空と太陽が見える。

 怒りの形相といったマッドネスモンキーが、アリスも剣を抜いて駆けた。


「…【挑発】【疾走】【体動の呼吸】【地の舞】」


 アリスはいつものと、前の経験から獲得した【地の舞】により、足場の影響を軽減させる。

 今までより安定した足場を革靴で強く踏み込み、頭上の左足には目もくれず、両手で持った剣をマッドネスモンキーより速いアリスはすれ違い様に、


「ギャァァア!!」

「…【クイックスラッシュ】」


 より前傾にして、右足へ横薙ぎ。

 アリスは踏まれることも無く、そのまま走り抜けた。

 マッドネスモンキーは片足立ちの状態で右足を斬られ、たたら踏み、泥濘に足を取られる。

 大きな音と悲鳴を上げ、後ろ側に転倒した。


「…【首刈り】【退魔之剣】【捨て身】」


 急ブレーキをかけ、戻ってきたアリスはスキルを使い、マッドネスモンキーが行動するより早く金髪を靡かせて跳躍。


「…【ソニックバッシュ】」

「ギャァァァアアッ!!」


 攻撃スキルの中でも珍しい、敏捷に応じてダメージ補正の入る【ソニックバッシュ】で、アリスは首へ一閃食らわせ、マッドネスモンキーの体を蹴って、大きく距離を取る。

 トータルダメージ3割少しと、コンボ技でクリティカルが出るという幸先の良い出だしに、アリスは僅かに口元が動いた。


「…!!」


 レストの斜線上から退きながら、アリスは叫ぶ。


「了解!!【挑発】」


 前もって決めてた合図でレストはスキルを使いながら、メニューから取り出した爆裂玉を投げた。

 事前に大樹を爆発してたので枝に当たる危険もなく、逃げようとしたマッドネスモンキーへ当てることに成功する。


「後一発かな」


 レストは約2割減ったHPを見て新たに爆撃し、アリスよりも少しだけ多くHPを削った後、アリスが回復するまでマッドネスモンキーと鬼ごっこを開始した。



「別に新しいアイテム作らなくても…全部爆発させればいい!!」

「……どういうこと??」


 レストの常識を忘れてきたような言葉に、考えなしで言ってるとは思いたくないアリスが聞く。


「木を爆破する」

「………意味分からない」

「ちょっと待ってね」


 上を向き、考えをまとめるレストを見て、考えなしではないことにほっとしたアリス。


「周囲の木を全部爆破すれば、枝に遮られることも、木を登って逃げられることもない…と思ったんだけど」

「…それって…」

「多分、地上でマッドネスモンキーと足場以外はいつも通り戦えるようになる」


 真っ正面にアリスを見据え、苦笑しながらレストは言った。

 レストの提案は、通常考えるであろうマッドネスモンキーの行動への対処法では無く、不利な原因となっている障害物を排除し、自分たちの有利な状況で戦うという、ぶっ飛んだ提案。

 つまり、木を登って移動するマッドネスモンキーのアドバンテージを、爆破して奪うというものだ。木から攻撃をしてくるマッドネスモンキーの攻撃の大半を無効化すると言っても過言ではない。

 誰もやってないであろう戦法をする未知への挑戦。環境や戦い方でレストよりも劣勢を強いられ、溜まっていた鬱憤。

 それらが高鳴る鼓動となり、この提案を受けろと言ってるかのように、アリスは感じた。

 だからこそ、アリスは一度息を吐き、冷静に思考する。経験から、この提案の穴を。


「…爆弾で木が折れるのは見た。けど、折れた後の木を足場に移動されたら意味ない」

「折れた木なら自動回収されるから問題ないよ」

「……木を折る前に攻撃されたら意味ない」

「マッドネスクロウの時の先手必勝で、マッドネスモンキーがいる木から投げる」

「………マッドネスモンキーが木から降りて来なかったら、意味がない」

「なら全部爆発させればいい」

「…………滑る」

「それ、マッドネスモンキーも同じと思うよ。対策をするなら、グランドの土入れみたいに、滑る場所に土を撒けば良いと思う。滑らなくなるかは分からないけど。あと、土に関してもスキル使えば、幾らでも持って行けるし。取ろうと思えば土があるなら、何処でも取れるよ」


 何故か悔しそうなアリスに、レストは頭を傾けて答える。

 想像以上に穴が無い提案に、アリスは謎の敗北感。


「これやれば、一石二ち……あっ、拾った石投げてサポートすれば良かった」


 レストは攻略方法をドンドン考えていく。

 それに劣等感を覚えるアリスだったが、レストの表情を見て、とあることに思い至る。


──…楽しんでゲームしてたのは、最後は何時だろう。


 初めは何もかも新鮮で一人でも楽しんで、必死に勝つにはどうするか考えていた。

 けど、経験を積むに連れて感動は薄れ、楽しさよりも効率となり、実績を残すとつまらなくなりやめる。

 そして、何かを求めるように新たなゲームを始めるが、次はどのくらいでこのゲームがやめるかを考えるようになっていた。

 だから、楽しくて仕方がないと言った表情のレストを見て、アリスが忘れていたそれを自覚する。

 アリスは、今日からレストを見習い、楽しんでプレイすることに決めた。

 

「…土は時間が掛かるから却下。足場は革靴に変えて、スキルで対処する。それに最低限の連携を出来るようにしないと」


 何処か柔らかくなったアリスと、相変わらず楽しそうに笑うレストが、お互いに意見を出しながら、作戦や連携の合図を作った。


「ギャァ…ァア…ア」

「やったぁーー!!勝てた!!」

「…勝った」


 それは、マッドネスモンキー戦を始めて20分後。

 回復したアリスがマッドネスモンキーと相対し、レストが石を投げては咆哮や攻撃の邪魔をして、マッドネスモンキーへ二人はリベンジを果たした。


「アリス、最後の腕を駆け上がって攻撃するのナイス!!」

「…そっちも転けた時の援護ナイス」


 マッドネスモンキーが光の粒子となって、消えていくのをアリスは背後に、両手を上げてレストが近づいて来る。


「アリス、ハイタッチしよ!!」

「…えっ」

「イエーイ」

「…………」


 この日、レストとアリスが本当の意味でパーティとなった。


────────────────────

予定では、新しいアイテム作って解決する筈が…

予定にはない、アリスのこのゲームを続ける理由が出来てしまった。

最後、アリスがハイタッチしたかは想像に任せます。

久しぶりに書いてて楽しかった。

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