第32話 主人公ってどっち??③
「ひゃほぉーー!!」
「メェェェエ」
さっきまで悲鳴を上げていたレストが、初級ライトポーション片手に、弱々しい声の赤いオーラを纏ったマッドネスシープを乗りこなしていた。
マッドネスシープより速く動くと歓声が上がり、強く体を揺さぶると奇声を叫び、カーブで慣性が掛かると嬉しそうな悲鳴を漏らす。
「曲がれぇー!!」
「メェェ…」
首を無理やり曲げて、マッドネスシープを望んだ方向へ誘導するレスト。
必死に落とそうとしているマッドネスシープが、いっそ哀れである。
ついでに。
中央にポツンと立って空を見ながら(遠い目)黄昏ているアリスも、いっそ哀れである。
大画面に映った瞬間複数の運営さんがコーヒーを吹いたのも、いっそ哀れである。
確実にレストはマッドネスシープを玩具か遊具と勘違いしているだろう。
「うん??どうしたスシ。さっさと続きやろう」
「メェ…メェ…」
さらっと、“スシ”と名付けているレストが、マッドネスシープの首を叩く。
息を荒げ、足がピクピク震えながらギリギリ立っているマッドネスシープ。
もし感情があり、言葉を理解していたら、レストを襲ったことに後悔しているだろう。
大きな首を揺すって催促してくるレストは、この羊にとって悪魔だ。
「しょうがない。休憩だぞ」
そう言いながら叩いたり、揺すったりしてさりげなく、ダメージが入れてくる所も合わせて。
レストは乗馬?というか、乗羊を楽しんでいただけだが。
「メェェェエエ」
「ちょっ埋まるーー!!」
マッドネスシープのHPが1割を切って、体力がある程度回復した時。
怒りの声ではなくて、怨みの声に聞こえるマッドネスシープの声。
胴体の毛がどんどん伸びて、座っていたレストが毛に埋まる。
モフモフに虜とされかけたレストが筋力を物言わせて、どうにか脱出すると。
「なにこの光景」
さっきまで似たような光景を作っていた本人がその言葉をいう。
マッドネスシープの頭がピョンっと出た毛玉といった光景で、レストに見えないが足も僅かばかり出ている。
「メェェェェェエ!!」
「アリス逃げてぇーー!!」
マッドネスシープが怨嗟の声を上げて転がり始めた。
レストがアリスへ注意喚起を飛ばす。
アリスがハッと意識が戻り、声がした方を向き。
「……ふっ、ふふ、ふふふ、ふふふふふ」
ツボに入って腹を抱えて静かに笑い始めたアリス。
見ていた運営も今度はもっと多くの人が吹き出した。
「うわぁーー!!」
「メェェェエ!!」
胴体を横に転がすように回る毛玉に、頭と足が出ている光景で。
さらに、レストが毛玉で玉乗りをしている光景だった。
必死な形相のレストが、手を万歳して走っているレストが、よりシュールな光景を盛り上げる。
手をクルクル回して落ちないようにするや、転けそうになるのも一つの喜劇となっていた。
落ちないように頑張っているレストが、いっそ哀れである。
「助けてアリスー!!」
「…ふふふ」
「メェェェエ!!」
「落ちるぅーー!!」
転がってくるマッドネスシープに、距離を詰められていたアリス。
レストの扱い方が分かってきた為か、手を振って逃げていく。
当然片手に腹を抱えて。
「スシあの鬼コーチを狙えーー!!狙えーー!!」
「メェェェエ!!」
悪代官と化したレストの発言に、今日の訓練を追加することを決めたアリス。
言い訳は「…私鬼コーチだから」という予定だ。
確実に根に持っている。
◯
息が上がったマッドネスシープの転がる速度が落ちた頃。
「アリス…様…助…けて…くだ…さい」
「メェ…メェ…メェ」
不安定な足場で落ちないように、空腹と体力の限界となっても頑張っているレストが、アリスに必死な懇願を送る。
アリスは少し息が上がった状態で、落ちなかったことに感心しながら答えた。
「…ジャンプして降りてきて」
「降り…たら轢…かれる」
「…大丈夫。私がどうにかする」
「頼んだ」
この時にどうする聞いておけば良かった、と後から悶絶するレストは飛び降りた。
体力が無くて、きつくても聞いておけば良かったと本気で後悔したのだ。
「…【瞬動】【見切り】」
アリスは【瞬動】と【見切り】を使い、遅くなった視界の中で降りてきたレストを落とさないよう慎重に抱え、走り出す。
「えっ!?」
視界に警告が出ているレストは思考停止した。
だって、レストはお姫様抱っこされているから。
レストが降りてきた時に、アリスが抱えやすかった格好がお姫様抱っこだったのだ。
マッドネスシープからだいぶ距離を取ったアリスはレストを下ろす。
「…レスト」
「………あ、ありがとうアリス」
「「……」」
レストは子供の姿しているとはいえ、男の子で中身は16歳の高校生なのだ。
現実なら顔が真っ赤になるぐらい恥ずかしいだろう。
運んでいる途中まで気づいてなかったアリスも、まさかお姫様抱っこで運ぶことになるとは想っていなかった。それも男性を。
互いに羞恥心で顔を背け、静寂が訪れた。
お互いに何とはなく見たマッドネスシープは疲労状態で動けなくなり、回転が止まっていた。
「ちょっと仕留めてくる」
「……行ってらっしゃい」
余計に恥ずかしくなったレストは、頬を引きずらせマッドネスシープの方へフラフラと向かう。
悶絶したい感情を誤魔化すために、過労状態のマッドネスシープ見て、レストは閃きに閃く。
出したロープとスギの木を、動けないマッドネスシープの足に結び。
爆裂玉で掘った穴を形成し、穴に木炭と薪を置いてからキャンプの火打ち石で着火し、スギの木を穴に落ちないように設置した後。
そして、レストがマッドネスシープを落とす。
足が木に固定され、逆さで落ちたマッドネスシープは大量の毛が燃え始める。
「メェェェエ!!」
「羊の丸焼きじゃぁーい!!ハハハァ!!」
どう見ても、
それに追い討ちでライフポーションをかけて高笑いしている姿は、
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次は休憩回です。
あのテンションを書くのツラい。
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