第33話 疲れた後は注意力が低下する
月明かりだけでも見晴らしの良い、広大な範囲に渡って芝が自生し。疎らに生えた広葉樹と低木や、1ヶ所に同じ形をした花が集まる花畑、膝まで高いテキリスゲが密集した場所まで存在する。
遠くでは、集まって寝ているヒツジやニワトリ、3~5匹の群れで活発に行動するオオカミに、跳ねたり転がったりするスライムなどの豊富な動物(?)たち。
他にものんびり釣りが出来そうな緩やかな川、ピクニックによさそうな少し高い丘もあり。
木漏れ日の森とは違い、時折通りすぎるプレイヤーたちがいることから、ここはプレイヤーから人気が高い場所だと分かる。
見た目よし、モンスターの遭遇率よし、モンスターの種類よし、ついでに夜の探索もしやすくて、二つの門から手軽に向かえる立地。
β版の時にここで遊ぶプレイヤーが続出したため、製品版で3倍大きくなった現存するエリアでも一番大きい“緑園の草原”。
そんな緑園の草原内に存在する隣に池があるキャンプ場の一角。
他のプレイヤーがいて、夜の襲撃が対処しやすい場所。
多くのプレイヤーたちがいる中、レストとアリスもたどり着く。
「…休憩」
「やっと着いた」
マッドネスシープを倒したあと、二人は次に強い暴獣がレベル40なので、アリス発案の今日はレベル上げて明日に挑むことを決め。
再びマッドネスシープとマッドネスベアへ挑みレベリングしていた。
現在はマッドネスベア戦終了後に休まず、次に挑むマッドネスシープいる緑園の草原へ戻ってきた所だ。
ちなみに、アリスの「…私鬼コーチだから」により自業自得なレストは訓練を追加され、両方で回避訓練が行われている。
「じゃあキャンプ準備するね」
「…お願いします」
「気にしなくていいよ。ところで赤、青、緑、黄色のどの色が好き??」
「…黄色」
「分かった」
インベントリの容量の関係でキャンプセットは入れてないアリスは申し訳なさそうに頼んだあと、急に好きな色を聞かれて困惑する。
そんな様子を見ながらレストは青色と黄色のコンパクトチェア、キャンプセットを取り出した。
「…椅子作ったの??」
「あったら便利だなーと思って」
「…黄色の座っていい??」
「そのために作ったからどうぞどうぞ」
恐る恐る座ったアリスを横目に、レストはキャンプの準備し、片手鍋にマッドネスシープのミルクを入れて火に掛ける。
アリスが座ってから少し経ち、【退魔之剣】を使った時の馴染み深い感覚が感じられた。
いつもより弱い感覚だが確かに体力が回復している。
「…これ」
「もしかして気づいた??」
「…体力回復効果ある」
青のコンパクトチェアに座って、木のお玉で片手鍋の中身を混ぜていたレストは素で驚く。
体力はHPやMPに比べて回復が目に見えて分かるものでないから、気づかれないと思っていた。
【神匠】で着席時に体力回復小となっているが、作ったレストも効果が分かっているからギリギリ回復していることに気づくレベルの感覚。
まさか、使って初日のすぐにアリスが気づくとは思ってなかった。
「気づかれると思っていなかった。それもこんな早く」
「……体力回復効果持ったスキルあるから」
「なるほど」
会って2日目なので互いのステータスやスキルのことについて、具体的に教えてないのでアリスははぐらかす。
そもそも、レストもアリスもスキルのことに関して敏感な部分があり、信頼できてないので話せないというのが正解だ。
そう考えるとスキルに関して、爆弾を抱えたレストと妨害されたアリスはある意味似た者同士である。
互いに深く聞かないので、安心できる相手と呼べるだろう。
「あとHPMPの回復速度にも効果あるよこのコンパクトチェア」
「……座るだけで回復する椅子…凄い」
たまに、レストがぶっ飛んだ行動をするという点を考慮しなければ。
レストの行動にドン引きしていたアリスも、モンスターを料理したら食べられるという発見をしたことに驚いた。
もちろんその時に、空腹だったアリスも丸焼きの一部を食べている。
レストのぶっ飛んだ行動のお陰で、お姫様抱っこの話を掘り返さない限り、お互いにいつも通り話すことができる。
ここだけの話、本来なら【料理】スキルのレベルが足りなくて無理だが、【万物の創造者】のお陰でマッドネスシープを料理できた。その結果、料理したレストのドロップアイテムに、“マッドネスシープの丸焼き”がある。
自作のアイテムを褒められたレストは嬉しそうに、温められたマッドネスシープのミルクをお玉で掬い、コップに入れた後にアリスへ譲渡しながら言った。
「結構な自信作だからね。はいこれ。マッドネスシープのホットミルク」
「……また暴獣の素材。でも、ありがと」
「いえいえ。どんな味か気になって」
「…レストらしい。美味しい」
「だね。森苺のジャム入れて飲むのも美味しいかもよ。やってみる??」
「…今度」
「それもそうか」
木のコップに入ったホットミルクを飲み、ミルク単体の味を楽しむ二人。
親戚の子供を世話する光景、夫婦の日常にも見えなくもない。
「そう言えばアリス。穴に降りた後はどうやって脱出する予定だったの??」
「…崖崩して、それを足場にして崖崩すを繰り返して脱出」
「つまり、崖を爆発させて穴の中で階段を作って、それを登って脱出ということ」
「…そう。途中から登りたい方を崩していけばスロープみたいに上がれる」
「そんな脱出方法思いつかなかった」
レストはテンパり事件でうやむやになった脱出方法を聞く。
昨日寝るときに気づいて、穴から降りた後の脱出方法の検討しても分からなかったから、思い付かなかったからアリスが考えた方法に感心する。
アリスも気になってたことを聞く。
「…マッドネスシープ倒したあと変な表情だった。何かあった??」
「……マッドネスシープの丸焼きがドロップアイテムにあって」
「…そう」
「少し食べる??丸焼き」
「…いい」
レストがはぐらかしたことで、変な表情だったのはスキル関連に当たりをつけるアリス。
少し失敗したなと思った。
ちなみに、レストの表情が変化したのは、字面が悪いスキルを習得したから。
「アリス体力回復した??」
「…したけど」
「ちょっと夜の間、素材集めに行っていい??」
レストがウズウズしたように素材集めを提案する。
全然気にした様子のないレストを見て、アリスは安心した。
「…分かった手伝う」
「ありがとう」
「…ほっておくと危なそうだから」
「ヒドイ!!」
レストとアリスは片付けた後、夜のフィールド探索へ出掛けた。
「さぁ、行こうアリス。素材集めまくるぞー!!」
「…少し落ち着いてレスト」
レストとアリスはずっとボス戦漬けで注意力が散漫になっているから気づかなかったが、周囲は騒然としている。
キャンプ場には戦闘プレイヤーは現在殆どがレベル上げの効率が良い所へ行っているのでいないが。レベル上げしに来た戦闘スキルなどを殆ど揃えてない非戦闘プレイヤーたちがここには集まっている。
集まった中に鍛治や大工を生業にする生産プレイヤーたちもいた。
ソロで有名なトッププレイヤーのアリスが認める前代未聞の体力回復アイテムのコンパクトチェアの情報。
他にも、自作アイテムの効果やマッドネスシープの丸焼きなどあったが。
最後に、コンパクトチェアを作った人物が幻とされる初級超ライフポーションの製作者だと判明する。
だが、気心の知れたやり取りに割り込める者はおらず、そそくさといなくなったために話かける暇もなかった。
こうして、体力回復アイテムのコンパクトチェアの情報、レストの情報、割り込めないぐらい妙に息が合った二人の情報が拡散した。
「おっスライムだ。そぉーい」
後の騒動も共に。
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