第27話 ノーコメントで
【宝物庫】の自動回収機能を切り忘れていたことに気づいたレストが安堵の息を吐いた。
ボス戦のドロップアイテムが個人で分けられる仕様だったお陰で、アリスのドロップアイテムまで取る事態にならなく済む。
勿論、レストは取ったとしてもちゃんと半分で分けるが、知り合ったばかりで、詳しく知らないアリスに要らぬ疑いを掛けられる可能性もあったから。
そういう点で助かったと安堵している。
ちなみに、道中に居たモンスターのドロップアイテムは、索敵スキルを持っていたレストが先に発見して倒いたや、品質も低い素材だから要らないという理由でレストが貰っている。
「…レスト。残りあげる」
「本当にありが……」
ドロップアイテムを指しながらアリスが言ってきた。
レストは感謝を告げる前にくれるというドロップアイテムを見て絶句する。
だってそこには、殆ど手付かずと言っても良いぐらいに大量のドロップアイテムが残っていたのだから。
「アリス様。山のように残っていますが…」
「…何で丁寧語。要らないから上げる」
「いえアリス様。納品クエストがありますよね」
「……素材集め手伝う約束」
「流石にこの量は貰えません」
確かに素材集めを手伝って欲しいとお願いしたが、少しなら兎も角、ボスのドロップアイテムが全部欲しかったわけでないから、レストは丁寧語で断固拒否する。
その様子を見ていたアリスは少しの間を開けて本当の理由をいう。
「…容量ない」
「えっ」
「…携帯食と剣と回復アイテムでインベントリ埋まった」
「あーなるほど」
アリスが山盛りのドロップアイテムをくれようとする理由が分かり、レストは納得する。
レスト自身は【宝物庫】の効果で大量にアイテムを持つ事ができるから、最近は容量をあんまり気にしてなかったが。アリスや他のプレイヤーは持てる容量に限界があり。
特にアリスは剣の消耗が激しいので剣を10本以上所持していると聞いてたので、空腹を回復するための携帯食と各種の回復アイテムも入れたら、容量の限界迎えたかもと思った。
実際はボスモンスターと戦うから死に戻りした際、アリスは回復アイテムを容量の限界まで買ったが、結局ほとんど使わず。
ドロップアイテムと所持アイテムを天秤に掛けている時に、ふとレストが素材集めの手伝いを約束していたことを思い出し、どうせなら譲渡不可のドロップアイテム以外あげよと考えた結果である。
ちなみに譲渡不可のアイテムは“暴獣の心(熊)”と呼ばれるマッドネスベアと再戦ができるというアイテムだ。
「そういう理由なら勿体無いし貰うね。ありがとうアリス」
「…いい」
全部貰うのは何か申し訳ないと思ったレストはアリスの装備を見て、唐突に閃いた。
「聞きにくいことだけど。アリスって装飾は何か装備してる??」
「……良い装飾ないからしてない」
「なら鞄系の装飾着けたら??容量増えるよ??」
「…それ本当!?」
現時点でレストのユニークスキル以外で容量を増やす方法があるとは思っていなかったアリスは、珍しく抑揚のある声でレストに詰める。
剣の代金を稼ぐために他のプレイヤーが殆どいないフィールドに出て、狩っても短期間で容量がいっぱいとなり、一日に何度も街へ換金しに行ってたアリスは、その事実を知って愕然とした。
同時に他のプレイヤーたちが何で鞄を着けていたかも不思議と思っていたが納得する。
あと、容量の事調べておけば良かったと後悔した。
容量で苦労してきたんだなと分かるぐらい、ドンヨリした雰囲気のアリスを励ますように「使ってない鞄あげよっか」と言おうとして、レストはまた閃く。
メニューを見て確認したあと、アリスに聞く。
「アリス。この素材貰って良い」
「………いいよ」
レストはメニューを開きレベルが3つ上がっていたので、速く終わらせるために【裁縫の心得】と【裁縫の秘法】を獲得する。
草原に出るモフモフシープの羊の毛から作った自作の“羊の糸(黒)”と“羊の布(黒)”、森の奥で自生しているなめし草から作った“なめし液”、銅で出来た“銅の金具”、簡易裁縫セットを取り出す。
簡易セットにある大きな容器になめし液とマッドネスベアの毛皮を入れた。
この工程から分かる通り、レストは毛皮で鞄を作ろうとしている。
「どんな鞄がいい??」
「…作ってくれるの」
「うん。本当は要らない鞄を渡そうかなと思ったけど。でも、せっかくだからマッドネスベアの素材で、作ってみようと思って」
「…ありがと。……レストが着けているやつ」
「腰掛けポーチね了解…そうだ、木のボタン使い切ったから作らないと」
レストが簡易大工セットと、そこらのスギの木で作った“スギの角材”を取り出し、ノコギリや彫刻刀などを使い木のボタンを作り始める。
途中、キャンプの中に入ったレストが行方不明になること(ヒント:毛皮を乾かす設備がある所へ行った)があったが完成した。
「はいどぉーぞ」
「…ありがと」
「お客様には一点お買い上げ毎にもう一個お付けしています」
「……2つもありがと」
アリスは2倍作るユニークスキルのことを思い出し、開閉できる木のボタンがアクセントとなったモフモフな赤黒い毛皮の腰掛けポーチの効果を見て、そっと装備した。
レストが目をそらして渡してきた意味が分かったのだ。
名称:暴熊の鞄
種類:装備 品質:6
耐久値:412/412 重量:1
効果:容量+25。防寒小。モフモフ時にMP回復微。
参考:レスト作。良質なモフモフ。
モフモフが凄く印象に残る腰掛けポーチ。
まさか、神殿の設備で毛皮を乾かしていたら大成功して、それをそのまま使ったら、モフモフするとMPの回復効果ある鞄が完成するとは…レストも思わなかった。
ちなみに、完成時にレストが一分間モフモフしてしまうぐらい、良いモフモフだ。
「あっそうだ。これもう持っているからあげる」
「………今度何かの素材渡す」
モンスターの遭遇率を下げる“暴獣の御守り”を貰った、借りの増えたアリスが呟いた。
アリスはドロップアイテムをポーチに入れたあと、レストがソロで挑むのを見るためにボス部屋へ出ようとする直前。
アリスは少しでも恩返しをするため、自分が持つ攻略サイトに載ってない習得できるであろうスキルを教えることにした。
「…レスト」
「どうした??」
「…お礼に多分習得できるオススメのエクストラスキル教える」
「スキルの情報教えない方が良いって聞いたんだけど。教えて大丈夫なの??」
「…いい。凄く便利なスキルだから」
「どんなスキルなの??」
「…モンスターへのダメージ5%上昇する効果と、レベル10の倍数毎にAPとSPが2倍になる効果を持つエクストラスキル【
得意気な雰囲気のアリスに、今まで向けてた視線をずらしたレスト。
だって、レストは【
そんな様子に気づいてないアリスは話を続ける。
「…どう。凄い効果。このスキルの習得方法は」
「アリス」
「…なに??」
「ごめん。持ってる」
「……そう」
「本当にごめん」
「………いい」
正直に言ったけど罪悪感に襲われるレストと、相手も持っているという事態に遭遇して羞恥心でいっぱいのアリス。
互いに人生で十本の指に入るぐらい気まずくなったが。
ソロのレストがマッドネスベアと投擲勝負しているのを見て、どうにか払拭された。
「…あの距離で全部当てるとか、ある意味理不尽」
「ノーコメントで」
そんな会話がレストとアリスの間でかわされたらしい。
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