ワンモアチャンス

福浦ロマンチスト

第1話 近藤誠司22歳、男性の場合。

「ここどこ?」


目を開けたら俺は雲の上に寝ていた。

見上げた空はとにかく青い。


「起きたか。」


俺の隣には黒のシャツ、黒のスーツ、黒のネクタイをした30代くらいの男がタバコをふかしながら座っていた。


「説明している時間はない。お前に残された時間は少ない。さあ始めるぞ。」


「始めるって何を?てか誰?」


男は面倒くさそうな顔をして話を始めた。


「なんだ、ドライバーからの説明はなかったのか?お前あの大切な時間何をしていた?」


言っていることの意味がまるでわからない。

続けて男はスマートフォンを持ち出して俺の頭にかざしはじめた。


「待てよ。お前移送中ずっと寝てたのか?ということは死んだ時間は9月12日午前5時頃。博多からの移動は約63分。残り時間は約48時間、もったいないとことをしたな。」


何を言っているんだ。俺は死んだのか?確かに寝る前の記憶がない。どうやって死んだ?それとも夢か?てか48時間って何?お前誰?

男はブツブツと独り言を話し始めた。


「アイツ最近たるんでるんだよ。次会ったら一回シメテやらるからな!」


と言ってタバコを吸い始めた。

時間がないんじゃないのか?

男はしばらく黙り込みタバコを吸い終わったらまた話し始めた。


「すまない、5分くらい大丈夫だ。じゃあ説明から始めるからちゃんと理解して行動に移せ。」


男は話を始めた。


「お前は死んだ。死因は交通事故だ。一時は生死を彷徨っていたようだが結果的にお前は息絶えた。そしてここからが重要な話だ。お前の目の前に2つの扉が見えるはずだ。一つはどこにでもあるような扉、あれは天国への扉だ。もう一つ、バカでかい扉が地獄への扉だ。今であればお前にはどちらに行くか選ぶ権利がある。」


気づかなかったが目の前に扉があった。そりゃあ天国に決まってるでしょと思い、伝えようと思った瞬間に男に口を塞がれた。

そしてまた話し始めた。


「その言葉を発していいのは死んでからここに来るまでの移動中のみだ。そしてその2つの場所がどんな場所か答えてくれるのも移動中のみだ。ここで間違えてでも発言した瞬間に行き先が決まってしまう。それが“神の法律だ”」


「神の法律?神様って本当にいるのかよ。じゃあ俺が今でここに来ることも決まっていたと言うことか?」


男は難しい顔をして答えた。


「明確には決まっていない。奴らが決めるのは生まれる日時、暫定の死亡日時のみだ。暫定日時で死ぬ、お前らがよく使う“寿命”で死んだ場合は、そいつの“人生ノート”を見て、天国と地獄のどちらに向かわせるかを会議で決める。それだけだ。“生命”を持つもの全てにその条件が与えられ、生きている際の過程については誰も操れない。だからこそお前のように“他殺”で死んだ人間には選択権が与えられる。」


納得はいかないが話はわかった。だがひとつ聞いておかなければならないことがあった。


「俺は誰に殺された?それも“神の法律”とやらで答えられないのか?」


「それは問題ない。お前は三喜屋拓郎に殺された。」


え!?タクローに殺された?知ってるやつじゃないかよ。むしろ幼馴染だ。


「なんでタクローが俺を殺したんだ?」


「それは教えることはできない。むしろ俺も知らない。但し、“知る術”はある。」


「知る術?教えてくれよ!これじゃあ納得がいかない、俺とアイツはガキの頃からの付き合いだぞ!最近だって会ってバカやっていた仲だぞ!嘘をつくんじゃねぇぞ!」


俺は男を掴んで吹っ飛ばそうとしたが、男はいつの間にか俺の背後にいた。


「では説明しよう。天国を選べばそのまま扉を開けて進めばいい。地獄を選ぶのであれば、死んでから49時間、俺と一緒に地上に戻ることができる。その時間はお前に与えられたワンモアチャンス、何をするも自由だ。但し、時間に延長はない。時間が来たらその瞬間ここへ戻り地獄へ進むことになる。」


男は淡々と過酷な選択を迫ってきた。


「なんだよそれ。どうすりゃいいんだよ!」


「それをお前が決めるんだ。俺は従うだけ、何もしないしできない。」


男は続けて話した。


「地上に戻って納得がいくのならそれもよし。知って後悔するよりか、知らないでおくこともいい場合だってある。ここで時間を費やして悩むこともいいが、その分時間が少なくなっていくことも忘れるな。」


この男は無責任だ。死んだ俺に精一杯尽くすのではなく、仕事としてこなすことを重視しているそんな印象だ。


「もし、俺がここで時間切れまで悩んだらその時はどうなる?」


「その場合はこの場から消えていなくなる。その後のことは俺は知らない。」


「今までにいたのか?」


「そんな質問をしてどうなる?大事なのはお前がどうしたいかじゃないのか?もう死んでるんだ、“49時間”の先を悩んだところで今までの生活は戻ってこない。」


確かに男の言う通りだ。単に俺はこの現実を受け止められていないだけに過ぎない。もしこれが夢ではなく本当に起きていることであれば俺は正しい選択をしなければならない筈だ。


「決まったか?」


「いや、決まってない。だが決めなければいけないという覚悟はできた。」


「そんなことで悩んでいたのか。始めから言っているだろう。後先考えるより、お前が今どうしたいかが大事なんだ。なんてったって死んでいるという事実は変わらないからな。」


「さあ選べ。お前の人生のワンモアチャンスだ。」


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワンモアチャンス 福浦ロマンチスト @naruson13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る