第36話
今日は領都へと帰る日。もう荷物は整っているので、あとは馬車に乗り込めば完了ですね。いろいろとあったから本当にあっという間だった。本当はフレン兄上たちにお茶に誘われていたのだけれど、何度か体調を崩したせいで結局あの日以降会えずじまいでした。申し訳ない……。
「お帰りを心よりお待ちしております」
深く頭を下げて見送ってくれている使用人たちの間を通って馬車へと乗り込む。うん、やっぱりふかふかだね。帰りはイシュン兄上と兄上の三人で一緒の馬車に乗ります。
「王都は楽しかったかい?」
「はい、とっても楽しかったです。
友達もできましたし」
来れてよかった、とニコニコしていると兄上も嬉しそうだ。イシュン兄上はやっぱり微妙な顔をしてくるけれど。
「ふふ、それはよかったね。
守り人のところはどうだった?」
そういわれてはっとする。そうだ、あそこではいろいろ不思議なものがあったんだ。
「それがですね!
あんな空間があったのですね。
本当に驚きました」
すごく神秘的で、いまだに本当に見たっけ? と疑問すら抱くほど。いや、本当に見たのはわかっているんだけれど、ね。それぐらいなんだかすごかったのだ。
「あの、話を聞いて不思議だったのですが、線を刻むとか、線が消えていくとか……」
僕の言葉に兄上はああ、とうなずく。やっぱり兄上は知っているのかな? そういえばあの言い方だとイシュン兄上は知らないのでは? とイシュン兄上の方を見ると特に何それ、みたいな顔はしていない。
「イシュン兄上もご存じなのですか?
その、守り人とか贈り物とかのことを」
「実物は見たことはないけれど、知識としては知っているよ。
学園の授業であったから」
なるほど、授業でもやるのか。あの時、上級貴族の子に見せている、という話し方だったからね。やっぱり見たことはないんだね。
「それで、時刻ミ石と日減リ石のことだよね、たぶん。
時刻ミ石は、たぶん炎の横に大きな石があったと思うだけれど、赤の日が来るたびにあの石には自然と線が刻まれていくみたい。
それを数えて国王陛下に報告することで、陛下が年を発表するんだ。
日減リ石の方はまた別の石なんだけれどね、こっちは赤の日に石に7行50列の線が出てくるんだ。
そして日の刻になるたびに一列目から線が消えていく。
その線がすべてなくなる日が赤の日の前日なんだ」
そんな仕組みになっていたのか……。あれ、でもそれだったら。
「なぜそちらの線のことは周知しないのですか?」
その方が絶対楽だよ。約束するにしてもあまり日が空くようなものはできない。何せお互いに今日がいつかを知ることができなかった。もし線が減っていく石を使って今日が何日か、という話を広めていったらもっと先の予定も考えられるんじゃなないかな。
「なぜって?」
「だって、みんなが日を認識していた方が約束が楽ではないですか?」
約束……、二人とも固まっている。え、そんなに意外なことかな? 『ラルヘ』の時なんて周りの人みんな言っていたよ。あと何日で月が替わるのかしれたらなぁ、って、遠い約束は月替わりを目安にするんだけれど、いつ変わるか感覚じゃないとわからないから、近くなるとみんなソワソワしだすんだよね。約束には準備が必要だから。
「広められないでしょうか?」
できることなら、と期待を込めて兄上たちを見る。二人はいまだに悩みこんでいるままだった。
「例えばどういう風に?」
不意に兄上がそう返す。例えば、例えば。刻は鐘守が鐘を鳴らすことで知らせている。日も同じようにするのがいいのか、それとも各家がいいのか……。でもたぶん各家がいいよね。さっき消えていく線は7行50列って言っていたし、それをそのまま使えばいいんじゃない?
「紙に石と同じように7行50列のマスを作るんです。
列はおそらく離した方がいいとは思いますが……。
それで日の刻が来るたびに線を引いていくんです。
そうすると、把握できるのではないでしょうか?
各家庭だけでやっているとずれることもあると思うので、鐘守の人にも基準として同じように線を刻んでもらうのです」
これでどうだ! と自信満々に披露する。これけっこういい案じゃないかな。
「なるほど、それだったら確かに……」
「日が分かった方がいいよね……」
お、兄上たちも惹かれている。ぜひぜひ実現していただきたい。
「言い方はどうなるんだろう?
列は日でいいとして、1行1日とか?」
それはなんだかおかしい。思わずくすくすと笑いが漏れてしまって、兄上に睨むようにこちらを見られてしまった。だって、おかしいんだもの。
じゃあ何がいいと思う? と話を振られてしまった。うーん……。これはなかなか難しい。12、12でしょう? もう1,2、3ってそのまま言ったほうが早くない? でもそれもな……。
うんうんとうなりながら、いろいろと思いついたことを言ってみる。けれどなかなかしっくりと来る呼び方がないんだよね。そのまま馬車は休憩場所に到着した。
「3人とも、なぜそんなに難しい顔をしているの?」
馬車を降り、お茶の準備をしてくれているところに行くと、すぐに母上がそう言って不思議そうな顔をしていた。そんなに顔難しそうにしていたかな? 全く自覚なかった。
「アランが面白いことを提案したのです。
それの名前を皆で考えていました」
兄上の言葉に、面白いこと? と首をかしげる母上。目の輝きが隠せていませんよ。
「日減リ石と似たものを民に浸透させよう、という話です。
今がいつなのか分かった方が約束もしやすい、と」
そういうと、兄上は先ほど馬車で話していたことを母上と父上に説明した。おお、すごくわかりやすい。
「まあ、それはいいわね!」
「よく思いついたな、アラン」
父上と母上の誉め言葉、すごく嬉しいのだけれどラルヘの不満もあってのことだから素直には喜びにくい……。何とか笑顔でありがとうございます、と答えた。でも、やっぱりいい案だよね。
「それにしても列の名前、か。
……、土、金、水、氷、木、火、炎。
それぞれを冠すればいいのではないか?」
すらすらと父上の口から紡がれたもの。えっと、なんだか聞き覚えがある気がするような?
「それはいいですね!
そうなるとひとまず無月が一番寒いので氷、金月はそのまま金、でしょうか?」
あああ、一生懸命思い出そうとしている間にあっさりと決まってしまった。まあ、これが実現できることのほうが大事だものね。うん、いいや金の1日とかって言い方なら、まだなんとなくなじめる。
帰ったらさっそく作業をしていこう、となんだか(長年の悲願でもある)思いつきは実現しそうな気がします!
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