第35話


「次は甘いものが食べたいな」


 なんだか食べてばっかりな気がもするけれど、せっかくだからいいよね。お店を回るのは後でで!


「甘いもの、ですか……。

 では、あちらに行きましょうか」


 僕のつぶやきを聞くとすぐに反応してくれる。指し示されたのは子供がたくさん集まっている屋台。


「あそこには何が売っているの?」


「あそこはフルーツがらめが売っているんです。

 砂糖を煮詰めてルルガを混ぜたものを新鮮なフルーツにつけているんです」


 ふむふむ、聞いているだけでなんだかおいしそう。


「食べにいきましょう!

 あの、お金は……」

 

 せっかくお小遣いをもらったのに使えないのもな、と口にする。


「それでしたら、我々はこちらで見ておりますので、お二人で買いに行かれますか?

 ただ買ったものをその場で食べないようにお願い致します」


「わかった」


 やった、買い物自体もすごく久しぶりだからちょっと楽しみ。シントに行こう、というとうん、と笑ってついてきてくれました。


 屋台で驚いた顔をされたけれど、無事にそれぞれ好きなフルーツを選んで買うことができました。早速二人のもとに戻っていく。最初の一口だけそれぞれに食べてもらって、やっと食べることができた。


「うん、おいしい!」


 周りの柔らかく食べ応えがある煮砂糖とジューシーなフルーツ。少し食べづらいけれど、だからこそ食べた感じがするのかもしれない。むぐむぐと一生懸命に食べて、食べ終わると手を洗う。そして、ほかのお店も見てみようという話になった。


 市場はやっぱり食べ物を売っているお店が多い。いろいろ見て回っているけれど、どこもすごくおいしそうなにおいがしてくる。いつもの食事でも感じていたけれど、本当に食事の基準が高い。

 これが国による差なのか150年という時の流れの影響なのかはわからないけれど、とにかくありがたい! 特に感動したのはパンだ。保存重視のパンはすごく固く、スープにつけないととてもとても食べられたものではなかった。スープもそんなに濃いものではないからなかなかにきつかったんだよね……。さっきみたいな料理だったらとてもおいしく食べられたのかもしれないけれど。

 それが、今の世の中ではふわふわのパンを食べることができる。あの時の感動はもう言葉に言い表せないほどだ。パンがこんなにもおいしいものだと、その時初めて知りました。


 ということで、こうして市場を歩いているだけで気になる料理はいくらでもある。ああ、もう少し食べられたらよかったのに。


「それにしてもとても活気づいているね」


 楽しそうに隣を歩くシントが言う。その言葉に僕はただうなずいた。はるか昔にこうしてシントと隣あって歩いた市場はこんなににぎわっていなかったし、何より楽しそうではなかった。隠しきれないほどのよどんだ空気の中、ひたすら己の役目を果たしていたかのような市場。隣なのにこんなにも違うのか。もちろん時代の流れ、という理由もあるのだろうけれど、それ以上にお国柄というものだと思う。


「ここは、いい国ですね」


「……、そうだね。

 だからこそ、僕はもう間違えるわけにはいかないんだ」


 間違える? シントは何かを間違えていただろうか。いつも目の前のことにただ真摯に向き合っていた彼が間違えたところは正直思い当たらない。


「よくわからないけれど、シントは深く考えすぎない方がいいよ」


 あまりいい結果に終わらないから。そういうとひどいな、といって笑った。ゆっくりと道を歩きながらそんな会話をする。すると、急にがしゃん! という大きな音が響いた。


「あ⁉

 何か文句あっか!」


「ああ、あるさ!」


 え、なになに⁉ すごい怖いんだけれど。急になんで喧嘩始めているの。


「こちらに。

 こんな明るい時間からエールでも飲んでるのかよ」


 ちっ、と舌打ちでも聞こえてくるようなつぶやき。え、これこの人が発したんだよね。ずっと丁寧な態度だったからびっくりした。


 喧嘩をしている人たちを避けるように二人に背を押される。まあ、下手に近づいて巻き込まれるわけにもいかないものね。


「あの、喧嘩をとめなくていいの?」


「続くようでしたら兵士が駆けつけるはずです。

 我々が優先性して行うべきなのはここから離れることですよ」


 きっぱりというと、今度こそここから離れるために歩き始めた。


「それしてもどうしていきなり……」


「おそらく、短気の方だったのでしょう。

 よく見られることですのであまりお気になさらないでください」


 そういうものなのかな? まあ、ツーラルク皇国では至る所でああいうことがあったから、あまり驚きはしなかったけれど。


 うーん、とうなっていると鐘の音が響く。もうそんなに時間がたっていたんだ。


「そろそろ戻りましょうか。

 最後にみたいものはありますか?」


「焼き菓子、買っていきたい。

 兄上にお土産として渡したいんだ」


「かしこまりました。

 行きましょうか」


 そうして無事に焼き菓子を買って帰宅しました。


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