真・実話怪談【闇への扉】

真観谷百乱

【ドロップ】


  ── 1番目の扉へようこそ ──


 久しぶりに会った知人女性と喫茶店でお喋りをしていた時のことです。

 昼下がりの明るい店内、耳に優しいBGM。

 のんびりしたその雰囲気に私たちは何やかやと話に花を咲かせていました。

 

 すると、突如、とあるイメージが脳裏に鮮明に浮かびました。


 これは子供の頃からの現象なのですが、その場の状況や相手との会話内容などにまったく関係や関連性のないイメージが、それこそ唐突に、しかもかなりリアルに浮かぶことがあり、結果的にそれが相手に関連することだと裏付けが取れ、自身で(なるほど、そういうことだったんですね)と納得するという──そんなことが幾度もありました。


 何故それが起きるのか?

 それは分かりません。

 ただ起きる──それだけが事実です。


 話をもとに戻します。

 その時、目の前にいるAさんに何か関係があるのだろう・・・・とは思いながらも、浮かんだイメージがあまりに意外すぎ、私は正直これを口に出して良いものかどうか、しばし迷っていました。


【サクマドロップ】


 脳裏にリアルに浮かんだイメージはコレでした。

 カラフルなドロップが印刷された缶──

(何これ・・・・意味不明)

 そんな気持ちでした。

 その存在すら忘れており、手にしたことなど幼児期以来はないほどに記憶もあいまいなドロップ缶──


 Aさんが熱く語るとある映画の話を聞きながら私は、この件を話すべきかどうかかなり迷いました。

 しかしサクマドロップは消えてくれない・・・・。

 結局──話しました。

 Aさんがそこそこ不思議話が通じるタイプだったこともあり、一応そのままを伝えてみよう、と。


 結果──

「えっ?! サクマドロップ?! うわ、それKさんだ!!」

 膝を打たんばかりのAさんの思いがけない反応に私は驚き、「そうだわ、絶対」と、続けてひとりごちているその表情を凝視しました。

「えっと、あの・・・・」

「あ、ああごめん! あんまり驚いちゃって。サクマドロップだなんて、もう笑っちゃうわ」

「??」


 Aさんの話はこうでした。

 1年ほど前、長い間の飲み仲間だったKさんという男性が急死をした。

 その男性、実は変わった飲み方をするのが仲間内で知られていた。

 その飲み方というのが──

「サクマドロップを舐めながらちびちび飲むのよ、酒を。変わってるでしょう? 何だか知らないけど大好きでね、あのドロップが。だからいっつもあの缶を持ち歩いてて・・・・そうか、なるほどね、あれを供えてくれってことね。わかった、近い内に必ずサクマドロップ持って墓参りに行くわ」


 そうだったのか──

 結果的には伝えて良かったと思ったと同時に、何故、私を選んだ?

 私なら話してくれるだろう、と、何故そう思った?

──という疑問に答えを得られないまま、その件はそれで終わりました。


 でもまあ何はともあれ、メッセンジャーとしてKさんという故人のお役に立てたならば幸いです。

 Aさんの供えたサクマドロップ、喜んで頂けたでしょうか。



 それではまた、次の扉でお会いしましょう。




 

 

 



 

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