SS10 ユイリンと幸香
「……で?」
「『で?』ってなんだよ…。」
「その人…ダレ?」
「ユイリンです! よろしくね!」
ユイリンが空気読まず、元気に自己紹介をした。
幸香は、いきなりユイリンを連れてきた敏雄にビックリした。
最初は、一瞬だけユイリンの見た目にビックリしたが、それ以上に敏雄が可愛い女を連れて来たことに驚いた。
ああ、自分がズルズルと好意を伝えないでいたせいで、とうとう来るべくして来てしまったのかっと、幸香は思った。
しかし、その後ユイリンと話をしてみると、敏雄と同じ新型ジルコンの仲間だと語られ、20過ぎであり、あくまで友人としてしか見てないことが分かり、幸香はホッとするのであった。
「へ~、ユイリンさんって、中国人なんですか。日本語お上手ですね。」
「いいえ、違うよ。私は、中国語を喋ってるの。」
「えっ?」
「科学者の連中が言ってた。俺ら新型ジルコンって、自動で言語を共通語として翻訳して喋れるらしいぞ。」
「便利だよね!」
ユイリンは、えへへっと嬉しそうに笑う。
外見は真っ白だが、仕草やその声はとても可愛い。顔だって白さを気にしなければ相当可愛い。
幸香は、やはり…っと、少し思った。
「でも…、酷いね…。」
「えっ?」
「私…知らなかった。トシオがサチカを人質に取られてたなんて。この研究所の人や軍の人もいい人だと思ってたのに…。」
下半身を失っていた彼女にしてみれば、この研究所の職員達もみんな恩人なのだ。そんな風に思っていた人々が敏雄達を社会的に殺した上に、幸香を人質にして敏雄を脅して戦わせるなんて真似をしていたなんて思わなかったのだろう。
「私、上の人にやめるよう言う!」
「そ、それは、やめた方が…。」
「どうして?」
「だって、仮に戦わなくて良くっても、そしたら敏雄は……。」
「人体実験直行。」
それを聞いてユイリンは、ギョッとして言葉を失う。
だがすぐに、表情を引き締めた。
「だいじょうぶ。人体実験なら、私がやればいいから。」
「えっ!?」
「だって、私、いっぱい実験してるよ? みんなのために実験に参加してるよ?」
「そ、それって…。」
「必要なことだから。これからのために。私、すごく感謝してる。だから辛くなんてないの。」
「でも、それじゃあユイリンさんが!」
「いいの。二人は心配しないで。」
「それは、出来ませんよ。」
「げっ! 由川!」
そこへ、由川がやってきた。
「どうしてですか?」
ユイリンが聞くと、由川は首を横に振った。
「なぜなら、敏雄君は、この夜で唯一のジルコン・プロトタイプの融合機だからです。彼の構造は、ユイリンさん、あなた方、量産型のジルコンの融合機とは異なりますので。」
「じゃあ、どうしたらトシオとサチカは…。」
「死ぬまで無理です。」
「そんな!」
由川にキッパリ言われ、ユイリンが悲しそうに声を上げた。
「ですが、お友達として二人を支えるぐらいは許されます。でも、解放しようとか、自由を上にかけ合うことはできませんので、ご注意を。あ、そうそう、敏雄君、この資料に目を通しておいてくださいね。では。」
そう言って分厚い資料を敏雄に渡した由川は、去って行った。
ユイリンは、顔を手で覆って俯いていた。
「ユイリンさん…。」
「ごめんね…。ごめんね、二人とも…、私、何も出来ないんだね…。」
「お気持ちだけでも嬉しいです…。」
「……ジルコンになると…、涙…、出ない。」
ユイリンは、悲しさから泣きたかったらしい。だが涙は出なかった。
「ねえ、サチカ。助けてあげられないけど…、お友達…になってくれる?」
「もちろんです。」
「嬉しい!」
ユイリンは、パッと明るく笑って幸香を抱きしめた。
その後、ユイリンとのたわいもないお喋りをして、二人は数週間ぶりに他人との会話を楽しめたのだった。
ついでに由川から渡された資料を三人で見たのだが……。
「何コレ…?」
「わ、わかんね……。」
「ようするに、新型ジルコンが、揃ったって事だよ。きっと。」
「分かるの?」
「難しい資料とか見させて貰ってるから少しは。……私とトシオを含めて、100機ぐらいみたいだね。」
「少なくね? 量産型のジルコンって、500機いたはずじゃ…?」
「たぶん…、壊されちゃったからじゃないかな?」
ジルコンの耐用年数の限界。それによって起こったジルコンの敗北のニュース。
すでに量産型のジルコンは、最初の500機から、そこまで数を減らしていたのだった。
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