SS4 ジルコンとアンバーの関係
連れて行かれたのは、古い研究室のような部屋だった。すでに研究はされておらず、使用禁止の札が貼られている。
敏雄は、クリエイターにそっくりらしい、シズと名乗った男と並ばされて周りを軍人に囲まれ、前方に白衣の大人達がいる状態だった。
「で?」
敏雄は、不機嫌さ丸出しで問うた。
「幸香は無事なんだろうな?」
「あの少女の無事を祈りたいなら、従ってもらうしかないのだよ。」
白衣の男のひとりがそう言った。
「まず、手短に我々の自己紹介をする。我々は、ジルコンの研究を行っている研究機関の一員だ。」
「そういや、俺がジルコンとどうにかなったって言ってたよな? どういうこと?」
「そのままだよ。君は、ジルコン・プロトタイプと合体・融合したのだ。それによって一命を取り留め、今、そこに立っているのだよ。」
「あ…。」
敏雄は、自分があの時どういう状況になっていたのか思い出した。
アンバーの肉に殴られ、骨や、あと内蔵もやられたような感触があったような…。
「そして、副作用なのかは不明だが、君自身が一番戸惑ったであろう、その容姿の変化がある。あの少女から聞いたが、元々は黒髪黒目だったそうだな?」
「あ、ああ…。」
「次に……、君の隣にいる人物に見覚えはないのだね?」
「あ、当たり前だ! 俺、クリエイターの顔知らねぇし! あんたらが言わなかったら分かんなかったつーの!」
「そうか…。」
すると、白衣の大人達がヒソヒソと話し合いを始めだした。
「おい! 俺がジルコンになっちまったってのは分かったけど、なんでクリエイターと一緒なんだよ!?」
「……それは、これから調べなければならないことだ。」
「はっ?」
「君には悪いが我々に協力して貰う。あの少女の命が惜しいのならばね。」
「なっ! 幸香は…関係ないだろ!」
「残念だが、彼女は君がジルコンと融合するところを見てしまっているのだ。解放するわけにはいかないのだよ。」
「な、んで…。」
「すべては…、世界を守るためなんだよ。」
「はあ…?」
分からない言われ方に、敏雄はただただ混乱した。
敏雄の隣にいるシズは、黙ったまま無表情で突っ立っていた。
***
幸香の命を盾にされ、連れて行かれたのは、最新機器が揃った研究室だった。
そこで裸にされ、身体の隅々まで機械に通されたり、採血されたりするなど検査が行われた。
当然、シズの方も調べられるが、敏雄と違って服も身体の一部であったため脱ぐことがそもそもできなかった。血も流れていないのか、採血もできず、そもそも生き物としてどうなんだ、ということで、別の部屋で精密検査。
「……なんだよ、これ…。」
裸にされて計器の鏡に映った自分の身体を見て、敏雄は愕然とした。
胸部の中心には、ジルコンの額にある、ジルコン石に近い宝石のような物が埋まっていたからだ。
その部位に吸盤付きのコードなどを付けて調べられ…。
「なるほど、これは、ジルコンの核の部位で間違いないですな。」
そう言う研究者達の言葉に、敏雄は目を見開いた。
「かく? なあ…、ジルコンって、パワードスーツを付けた人間じゃ…?」
「ん? そうか…一般的にはそういう触れ込みなってたね。単刀直入に言わせてもらうと…、ジルコンは、アンバーと同じなんだよ。」
「んな!?」
敏雄は、計器のベッドから起き上がり、驚愕の声を上げた。
「正確には、近縁種……兄弟とも言えるかもしれない。だが生まれも、その生みの親も同じなのだよ。」
「それって…。」
馬鹿な敏雄でも察してしまった。
「そう、ジルコンを創ったのは、アンバーを創ったクリエイターだ。」
それは、敏雄にとってこれまでの信じていたモノを破壊する事実だった。
「な…んで…? 世界を脅かすようなモン創っておいて、それを倒せるモンを創るなんて…。」
「では、なぜ、ジルコンがアンバーに対抗できるのか…、考えたことはないかい?」
「それは…。」
「振動数だよ。ジルコンの核の振動数は、アンバーの核と同調させることができる。結果、それを振動兵器に転換することで、あの肉鎧(にくよろい)を破壊できるのだよ。だから、ジルコンでなければ、アンバーを倒せない。それが真実なのだよ。」
「なんでだ!」
敏雄が叫ぶ。
「じゃあ、なんでアンバーなんてモンをクリエイターが創ったんだよ!」
それは、心の底からの叫びと疑問。
しかし、返ってきたのは……。
「アンバーの核は……、《GAEA》の燃料だからだよ。」
冷たい声色で返されたのは、世界が隠し続けてきた、最悪の真実だった。
「ね、燃料…? 《GAEA》は…、クリーンな究極のエネルギー生産炉心だって…聞いてるのに? アンバーが…燃料?」
「アンバーは、燃料になる。そして、その核が燃やされた後に出てくる資源は、社会のありとあらゆるモノに利用される。だが、偶然にも生まれた、アンバーの亜種であるジルコンは、燃料にならない。だから、ジルコンは、アンバーを殺し、その核を《GAEA》へと運ぶ役目を負わされたんだよ。」
「…嘘だ……。」
敏雄の脳裏に、アンバーに殺され、そのアンバーを殺してくれたジルコンの姿が思い浮かぶ。
ずっとずっと、ジルコンをヒーローだと思ってた。アンバーは許されない怪獣のようなモノだと思ってた。
だが、事実は……。
「アンバーは、《GAEA》計画と同時に開発された《GAEA》の燃料となるための、人口生命体なんだよ。元々は、人畜無害だったが、なぜか50年前のある日を境に当然暴走を始めたんだよ。」
それは、究極のエネルギー生産炉心として発明された《GAEA》の闇であった。
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