第13章:創造主と始祖神

第1話:主との戦い

 創造主:Y.O.N.Nと名乗るヨン=ウェンリーは自分の身を喰らおうと、大きく口を開きながら、かつ、螺旋を描きつつ迫りくる8匹の大蛇たちから退避するために、祭壇場から垂直に上へ向かって飛び跳ねる。しかも、その高さは悠々とドームの天井まで達っするのであった。


 8匹の黒い大蛇たちはそれでも彼を逃してなるものかと、創造主:Y.O.N.Nの後を追従する。大蛇たちは、創造主:Y.O.N.Nが上に飛び上がった後、牙を剥いたまま、ドームの天井に向かって一気に伸びていく。創造主:Y.O.N.Nはそこから身を翻し、ドームの天井を蹴り飛ばして、一気に祭壇から離れるのであった。そして、彼が天井を蹴って、そこから移動すると、勢いを止められぬまま、大蛇たちは天井を穿つ結果となる。


 難を逃れた創造主:Y.O.N.Nはうひぃ! とまるでおどけた感想を口から漏らしながら、ドーム内の地面に着地しようとする。するとだ、そこで待ち構えてかのように白銀の光に包まれたシャトゥ=ツナーが長剣ロング・ソードを構えていたのであった。シャトゥ=ツナーはもらったとばかりに彼の右肩に向けて、赦しの光ルミェ・パードゥンの切っ先を突き出す。


 しかし、シャトゥ=ツナーはここで驚く。なんと創造主:Y.O.N.Nは空中であるのに一気に降下速度を落とし、シャトゥ=ツナーの突き出す長剣ロング・ソードの切っ先から1ミャートル先で止まってしまうのである。


「ちょっと待つッス! さすがにそれは反則ッスよ!?」


「ははーっ! わいの着地地点に先回りするまでは良かったけど、あんたはん、わいが創造主であることをすっかり忘れていたようなんやで? この世界が魔術溢れるものにしたのは、わい自身やで?」


 創造主:Y.O.N.Nの身体は緑の風にいつのまにか包まれており、実際のところ、彼は風の魔術を駆使して、宙に浮いているわけである。法王庁に所属している聖堂騎士は光の魔術については訓練を施されているが、他の魔術はまったくと言っていいほど使いこなすことができない。


 だからこそ、シャトゥ=ツナーは彼に回避不能の1撃を入れれるとばかり計算していたのである。しかし結果は違った。すでにヨン=ウェンリーの身体は創造主:Y.O.N.Nのものとなっており、彼は自由自在に魔術を扱える状態になっていたのである。


 相手が自由自在に宙を舞うことができるとなれば、シャトゥ=ツナーにとって、厄介この上ない相手となる。宙に浮いている創造主:Y.O.N.Nに跳躍して斬りかかれば、あちらは宙に浮いたまま回避をおこない、無防備な状態を晒すことになるシャトゥ=ツナーを一方的に攻撃できてしまうからだ。


 しかしそれでもシャトゥ=ツナーは動く。地面を力強く蹴り、斜め上に跳躍し、光の速さで宙に浮く創造主:Y.O.N.Nに肉薄する。シャトゥ=ツナーは身をねじりながら、横薙ぎで長剣ロング・ソードを振るう。創造主:Y.O.N.Nはニヤリと口の端を歪め、軽々とシャトゥ=ツナーの1撃を横方向に回転しながら回避する。


 そして、がら空きの背中を唐竹割りで切り裂いてやるとばかりに、創造主:Y.O.N.Nは右腕を振り上げて、長剣ロング・ソードを縦にする。しかし、それはシャトゥ=ツナーの誘いであった。シャトゥ=ツナーは当然、こうなることは予測している。それゆえの横薙ぎなのだ。シャトゥ=ツナーは横薙ぎをした勢いを殺さず、空中に居ながら身体を強引に後ろへと振り向かせたのである。


「うおっと! あんたはん、やりますなあ!?」


「へへっ、お褒めに預かり光栄ッス!」


 創造主:Y.O.N.Nはシャトゥ=ツナーがこちらに振り向いたは良いが、ここは空中なのだ。それ以上は彼は何もできないだろうとは思うのだが、二の足を踏んでしまう。創造主:Y.O.N.Nは上に振り上げた長剣ロング・ソードをシャトゥ=ツナーに向かって振り下ろすのをためらう。


 それが創造主:Y.O.N.Nにとっては幸運だったことが起きる。シャトゥ=ツナーの背中側から圧倒的な存在感を持つあるモノが突っ込んできたからだ。シャトゥ=ツナーは創造主:Y.O.N.Nと自分の背中側から接近してくるあるモノの間に割り込み、創造主:Y.O.N.Nにそれを視認させることを遅らせたのである。


 そう、そのあるモノとはナナ=ビュランが操る8匹の黒い大蛇であった。大蛇たちはシャトゥ=ツナーの身から発する白銀の光を隠れ蓑として、まっすぐに高速で彼の背中へと接近し、その光とぶつかる直前に四方八方へと迂回する。


 もちろん、創造主:Y.O.N.Nからはその黒い大蛇は視認できていなかった。そのため、眼の前のシャトゥ=ツナーが発する白銀の光から黒い触手が生えてきたかのようにも見えたのである。


「なんやとぉっ!?」


 シャトゥ=ツナーとナナ=ビュランの連携に思わず驚いてしまう創造主:Y.O.N.Nである。下手をすれば、シャトゥ=ツナーがナナ=ビュランが発する大蛇に喰われかねないのだ。彼が彼女の腕前を信じているからこそ出来る芸当である。実際、ナナ=ビュランは闇の告解コンフェッション・テネーヴァを完全に支配下に置いていると言っても過言ではなかった。


 いくら闇の告解コンフェッション・テネーヴァが二振りの長剣ロング・ソードに分割されて、力が衰えている神具と言えども、それをニンゲンの身で操りきるのは困難である。元々は魔王が使っていた武具なのだ。それなのに、20歳にも達してないような半兎半人ハーフ・ダ・ラビットの小娘がここまで自由自在に操られるものかと感心してしまう創造主:Y.O.N.Nなのである。


 創造主:Y.O.N.Nが出来ることと言えば、防御一択であった。彼は自分の身に纏う風の量を増し、それを防御壁と化す。創造主:Y.O.N.Nを包み込む風は緑色の障壁と化し、その身を喰らわんとする大蛇の牙を防ぐ。しかし、これが1匹2匹なら防げたかもしれない。


 緑色の障壁へ大蛇たちが次々にその獰猛な牙を突き立てる。その牙の数は上下合わせて32本。創造主:Y.O.N.Nが身に纏った緑色の障壁は10秒も持たずに、まるで幾重にも重なりあったガラスがほぼ同時に割れるかのようにパリパリパリーン! と甲高い音を立てて、割れ砕ける。


「こりゃまいったんやでぇぇぇ!?」


 創造主:Y.O.N.Nはあっさりと砕かれてしまった緑色の障壁の破片が飛び散る宙の中、自分が相手の力量を計り損ねていたことに後悔するのであった……。

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