第12章:魔族の王

第1話:連携

「タイラーとネーコは正面から! あたしは左翼、シャトゥは右翼から回り込むように攻撃をするわよっ! 良いわよねっ!?」


 ナナ=ビュランが自分の周りに集う面々に矢継ぎ早に指示を飛ばす。飛ばされた側はコクリと首を縦に振って首肯し


「ハーハハッ! 異論などないっ! ネーコくん、わたしのサポートを頼んだぞっ!」


「しょうがないみゃー? 僕が出来る限りのことをするんだみゃー」


 マスク・ド・タイラーが黒いパンツの中に両手を突っ込み、もぞもぞと何かを探り当てるようにその中を物色し始める。そして両手がパンツの中から抜かれると、その手には穂先が無い長さ1.8ミャートルの黒鉄クロガネ製の槍を手にもっていたのである。


「ん? 穂先が取り付けれてない槍なんか取り出してどうするんだみゃー? それじゃ、ただの棒なんだみゃー?」


 ネーコ=オッスゥの疑問は当然であった。穂先の無い槍など無用の長物だと言いたげな表情である。しかし、言われた側のマスク・ド・タイラーはハーハハッ! と高笑いし


「これはこんと呼ばれるシロモノだ! エイコー大陸の遥か東の大国の武術家が好んで使う、ただの長い棒だ!」


 マスク・ド・タイラーが自慢げにその長いだけの黒鉄クロガネ製の棒きれを両手で持ち、ブンブンッと威勢よく回す。しかし、ネーコ=オッスゥには今、それを使う場面であるのかはなはだ疑問であった。


(そんなものでどうやって戦うんだみゃー? 素直に槍を取り出したほうが良さそうな気がするんだみゃー)


 ネーコ=オッスゥにはこんと呼ばれる武器の有用性をあまり理解していなかった。ネーコ=オッスゥからの視点では、そんな訓練用の槍よりも使えなさそうなものに価値があるのかわからないといった感じである。


 しかし、マスク・ド・タイラーはハーハハッ! と高笑いをしながら、ナーガ=ポティトゥにまっすぐ突っ込んでいく。ネーコ=オッスゥはやれやれ……と嘆息した後、ペッペッ! と両の手のひらに唾を吐きかける。そして、1度、鎧下の服の表面でその唾を拭い取った後、しっかりと戦斧バトル・アクスの柄を握りしめる。


 マスク・ド・タイラーとネーコ=オッスゥがナーガ=ポティトゥの正面から突っ込んでいくのを見送った後、ナナ=ビュランとシャトゥ=ツナーは互いに視線を合わせ


「シャトゥ。頑張ってね? もし、あいつを倒せたら、ご褒美をあげるからっ!」


 ナナ=ビュランは彼にそう言うと左翼に向かって走り始めていた。残されたシャトゥ=ツナーは一瞬、ポカーンとした間抜け面を晒した後、パンパンッ! と両手で頬を叩き、さらに気合を込める。


(ま、マジッスか!? よ、よーし! 俺、やってやるッス!!)


 シャトゥ=ツナーが望んでいるご褒美はもちろん、ナナ=ビュランの接吻せっぷんである。いや、マウント=ポティトゥを倒した時は唇と唇を合わせての接吻せっぷんであったから、次のご褒美は彼女と接吻せっぷんしつつ、彼女のおしとやかな胸を数度揉ませてもらっても問題ないだろうとまで思ってしまうのであった。


(揉みごたえの無さそうな胸ッスけど、触れるだけマシってもんッス! よっしゃ! 俺、ナナに良い所を見せるッス!!)


 もちろん、ナナ=ビュランはシャトゥ=ツナーが戦闘中にそんなよこしまなことを心の中に抱き、さらには軽く勃起しているなど、思いつくわけもない。しかし、これは別にシャトゥ=ツナーが悪いわけではない。


 ニンゲン、特に男性となれば、生死の境に立たされた時、2種類の極端な身体の反応が起きる。一方は死ぬことに恐怖し、身体が硬直し、さらには失禁してしまう者。もう一方は身体から力が普段以上に沸き上がり、ち〇こにまでその力が行き渡り、恐ろしいまでに勃起してしまう者が。


 マスク・ド・タイラーとネーコ=オッスゥは幾度も死線を乗り超えているために、そう言った自然の摂理をある程度はコントロールできるようにはなっている。しかし、まだまだ戦闘経験の少ないシャトゥ=ツナーは、自分の性欲にまで流れ込んでくるエネルギーをどうにも出来ずに、半立ちからフル勃起までに要する時間はさほどかからなかったのであった。


 さて、シャトゥ=ツナーのどうでも良い勃起情報は置いておいてだ。先行したマスク・ド・タイラーたちがナーガ=ポティトゥの鼻先まで詰め寄っていた。ナーガ=ポティトゥは横幅1ミャートルもある巨大な顎を縦に大きく開き、飛びかかってくるマスク・ド・タイラーを喰らわんとしていた。しかし、マスク・ド・タイラーは彼女の下顎に乗ったまま、こんと呼ばれるただの長い棒きれを巧みに動かし、コンコンガンッ! と小気味良いリズムで上顎の内側を連続で突いていく。


 その連続突きにより、ナーガ=ポティトゥの口はさらに開かされる結果となる。顎を閉じられないと悟ったナーガ=ポティトゥは頭自体を上に向かせて、マスク・ド・タイラーを重力に任せて飲み込もうとする。だが、それがいけなかった。


 後に続いていたネーコ=オッスゥから見れば、ナーガ=ポティトゥは首筋の表側をネーコ=オッスゥに向かって露わにする結果となるのであった。もちろん、彼がその好機を逃すわけがない。ネーコ=オッスゥは左から右へ戦斧バトル・アクスを振り回し、まるで彼自身が独楽こまになってしまったかのようにグルングルンと回り続けながら、ナーガ=ポティトゥに接近するのであった。


「もらったんだみゃーーー!」


 ネーコ=オッスゥが戦斧バトル・アクスによる渾身の1撃がガッコーーーン! という盛大な音と共にナーガ=ポティトゥの喉仏に突き刺さる。ナーガ=ポティトゥはグゲェ! という声にもならぬ悲鳴をあげる。しかしながら、ナーガ=ポティトゥの皮膚は硬く、ネーコ=オッスゥの全ての力を込めた1撃でも、彼女の皮膚には軽い亀裂が入っただけである。


 なにくそと思ったネーコ=オッスゥは、今度は右から左へと逆時計周りに身体を回す。そして、フルスイングでもう一度、ナーガ=ポティトゥの喉仏に戦斧バトル・アクスをぶち当てに行く。


「調子に乗るんじゃないんジャヨ!」


 ナーガ=ポティトゥは口の奥から大岩を吐き出し、口の中でこんを振るうマスク・ド・タイラーにぶち当てて、無理やり口の中から追い出す。そして、邪魔者が居なくなったと同時に自分の下半身の右側の車輪のみを急激に回し始める。なんとナーガ=ポティトゥはその場で右から左へグルン! と回転し、ネーコ=オッスゥの1撃をかわす。


 さらにはナーガ=ポティトゥも回転の力を利用して、下半身の右側の車輪部分をネーコ=オッスゥに勢いよくぶち当てるのであった。

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