第6話:合致

「もう! いい加減にしてよっ! 結局、このままだとスタート地点のあの馬車駅に戻っちゃうじゃないのよっ!」


「落ち着くッス……。暑くてイライラしている分もあるかもッスけど、失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドは悪くないはずッス」


 オアシスで一晩を過ごした後、ナナ=ビュランは次の日も、またその次の日も失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドを使っての砂漠での捜索を続けていた。昨日、一昨日と合わせて9回目となる杖が指し示す先は、なんと、砂漠の入り口である馬車駅を指し示すのであった。これには、ナナ=ビュランも水晶クリスタル製の杖を地面に叩きつけ、さらには右足で何度も踏みつけるのは仕方がなかったと言えよう。


 憤慨するナナ=ビュランを抑えるために、シャトゥ=ツナーがナナ=ビュランの背中側に回り、彼女を羽交い絞めにする。それでもナナ=ビュランは気が収まらないのか、ゲシゲシと杖を踏みつけ、さらには蹴っ飛ばすことになる。マスク・ド・タイラーは蹴っ飛ばされて砂地の上を転がっていく杖をやれやれと肩をすくめた後、砂まみれの杖をパンパンと叩き、砂を取り払い、黒いパンツの中にしまい込む。


「まったく……。道具に罪は無いんだぞ? 使う側に問題があるはずだ」


「そんなこと言われたって、あたしにどうしろって言うのよ!?」


 ナナ=ビュランの当たり散らしの矛先が今度はマスク・ド・タイラーに向かうことになる。マスク・ド・タイラーは後頭部をポリポリと掻き、眼光鋭く、ナナ=ビュランを睨むことになる。


「この暑さでイライラするのはわかる……。だが、わたしは道具のメンテナンスにかけては手を一切、抜いていないからな? 失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドがあらぬ方向を指し示すのには、それなりの理由があるはずだ」


 マスク・ド・タイラーの説教にも似た言葉で、ナナ=ビュランは、うっ……と喉を絞らせることになる。せっかく、好意で貸してくれたモノを自分は足蹴にしたのだ。本来なら自分が女性でも、彼にぶん殴られてもおかしくないのである。それでも、女性に手をあげるのは紳士の道に外れるがゆえに、マスク・ド・タイラーは語気を強めるだけで抑えてくれていることを察するナナ=ビュランであった。


「ごめんなさい……。イライラを杖にぶつけちゃって……」


 ナナ=ビュランはシャトゥ=ツナーに羽交い絞めをやめるように言い、彼から解放された後に、マスク・ド・タイラーに向かって頭をペコリと下げる。マスク・ド・タイラーはうんうんと頷き、満足気に


「うむっ、わかればよろしい。では、これからどうするかを考えようではないかっ!」


「どうすると言われても、困った話なんだみゃー。失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドと言えば、当たるも八卦、当たらぬも八卦とは言われてはいるけど、ここまで外れることはなかなかないんだみゃー」


 失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドは、さる高貴な魔術師が独占販売をおこなっている杖である。ネーコ=オッスゥの言う通り、失せモノをばっちりと指し示すのは運も絡んでくるために、信用性がそれほど高くは無い。しかしながら、2~3回も使えば、時間はかかるものの、必ずは正解にたどり着く逸品である。それなのに、すでに9回使用しても、失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドが目的とする場所を指し示さないのは異常とも言える事態であった。


「もしかすると、失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドは何かしらの理由があって、正しい場所を示せないようにされているんじゃないッスか?」


「えっ? それってどういうこと?」


「俺たちが追っているのは、法王庁から鎮魂歌レクイエムの宝珠を奪い取るくらいの実力者なんッスよ? そして謎の変貌を遂げる賊たちッスよ? 断言は出来ないッスけど、法王庁を奇襲出来るほどのすべを持っているなら、その居場所を隠す方法だって、手中にあるのかも知れないッス」


 シャトゥ=ツナーの言いにナナ=ビュランとネーコ=オッスゥはなるほど、それは一理あると思うのであった。法王庁には金が集まる。それゆえ、その金品財宝を狙う賊に対して、強固な魔術による結界を張ることにより、いち早く、その存在を知ることができるのだ。しかしながら、鎮魂歌レクイエムの宝珠を奪った連中に対して、法王庁側はまともな対応ができなかったのである。


 そうは言っても、法王庁を襲ったのは先日、ナナ=ビュランたちに戦いを挑んできたポティトウ三大貴族たちである。奇襲うんぬん関係なく、法王庁に大打撃を与えるだけの力を持っていたのだ、奴らは。


 ナナ=ビュランたちがああだこうだと話をしているところにマスク・ド・タイラーが割り込む。


「むむ!? 法王庁を襲ったのはポティトゥ三大貴族たちだったのか!? なんでそれを早くわたしに言わなかったのだ!?」


「あれ? タイラーには言ってなかったっけ?」


 ナナ=ビュランがきょとんとした顔つきでマスク・ド・タイラーに言う。言われた側のマスク・ド・タイラーはじたんだ踏みながら悔しそうに


「聞いてないぞっ! ええぃ! 絡繰り人形ポピー・マシンたちの本拠地を探しているのであれば、失せモノ探しの杖ダウジング・ロッドが役に立たないのは当たり前ではないかっ! わたしもかれこれ数年、探し出そうとしているが、一向に奴らの本拠地を暴けずにいるのだっ!」


 マスク・ド・タイラーの言いでは、彼も何かしらの理由があり、ポティトゥ三大貴族が属する絡繰り人形ポピー・マシンたちの本拠地を探す旅を続けているそうだ。しかし、どんな手を使っても、今の今まで、探り当てることが出来ないのでいたのである。彼がポティトゥ三大貴族に出会えたのは幸運の助けがあったと言って過言ではなかった。


「くっ。バンカ・ヤロー砂漠に奴らの本拠地があることがわかっただけでも良いとも言えるが、その本拠地をどうやって見つけ出せば良いのだっ! わたしは歯がゆさで気が狂いそうだっ!」


 マスク・ド・タイラーは右手の人差し指の関節部を悔しそうに噛む。血が滲みだすかもしれないとばかりに力強く噛むために、ネーコ=オッスゥはマスク・ド・タイラーの右腕を掴み、さらにはその腕を引き、彼に指を噛むのを強引にやめさせるのであった。


「何か因縁めいた、いえ、運命じみたモノを感じるわね。あたしたちが向かおうとしている先と、タイラーが探している絡繰り人形ポピー・マシンとか呼ばれている者たちの本拠地がもしかすると同じなんて……。神様がそうなるように仕向けたとしか言いようがないわね」

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