第4話:砂イルカの群れ
「ホエホエー! 出発進行だよー! って、どっちの方向に向かうか決まっているんかよー?」
準備も整い、いざ出発といったところで、砂クジラのシャールにツッコミを喰らう面々である。
「あっ。そう言えば、肝心のことを忘れていたわ……。ねえ、シャトゥ、どっちに進んだら良いと思う?」
「俺に聞かれてもわかるわけがないッス。ナナの直観に頼ってみるのが良いと思うッス」
ナナ=ビュランとシャトゥ=ツナーがああだこうだと、どっちの方向に進むか相談をしだすのは良いが、確定的な何かがあっての方向指示でもないので、雇わている側のネーコ=オッスゥであったが、彼はたまらず文句を言い出す。
「そんな当てずっぽうはさすがにやめといたほうが良いと思うんだみゃー」
「うーーーん。困ったわね。ここにきて、とんでもない問題に出くわしたわ……。誰か良い方法を思いついてくれないかしら?」
ナナ=ビュランがネーコ=オッスゥにツッコミを入れられて、困り顔でちらりとマスク・ド・タイラーの方を見る。マスク・ド・タイラーは待ってましたとばかりに黒いパンツに両手を突っ込み、もぞもぞとしだすのであった。
そして、彼がその黒いパンツから両手を抜き出すと、長さ1ミャートルほどの
「じゃじゃーん!
「さすがタイラーね! じゃあ、さっそく……」
ナナ=ビュランはマスク・ド・タイラーから
「んー。北北東? そっちの方角に何かあるのかしら?」
「ふむっ。確かオアシスがあったような気がするな? なにぶん、バンカ・ヤロー砂漠に足を踏み入れるのは数年ぶりだからなあ?」
「ホエホエー。ここから北北東に向かえば良いのかよー? 枯れたオアシスに何の目的で行くかはわからないけど、向かうだけ向かうんだよー?」
砂クジラのシャールがこちら側に背中を向けたまま、そう言うのであった。ナナ=ビュランは一抹の不安があるものの、ここは
もちろん、その杖が指し示す方角に訝しむシャトゥ=ツナーとネーコ=オッスゥであるが、そうだからと言って、他にどこに目指すべきかを言えるわけでもないので、ここは黙っておくことにするのであった。
砂クジラのシャールはホエホエー! と雄叫びをあげる。そして、ゆっくりと砂漠を泳ぎ始めるのであった。そして、彼が動き出すと同時に、荷馬車もつられて動きだす。
まるで砂漠の中を船が進むかのように順風満帆にナナ=ビュランたちは移動していく。時折、砂イルカたちが、砂の中から飛び出し、ナナ=ビュランたちの眼の保養となる。砂イルカたち段々と群れを成し始め、ついにはナナ=ビュランが乗り込んでいる荷馬車に近づき、キュイキュイ! と鼻を鳴らす。
「かわいいー! 砂クジラのシャールと比べると別格のかわいさねー!」
荷馬車の荷台部分の後方2ミャートルほどの距離を砂イルカたちが砂の中を泳ぎながらついてくるのであった。ナナ=ビュランは彼らに何かあげるモノがないかと荷台の中を物色しはじめるのであった。
「砂イルカって、砂クジラと同様に金貨が好きなの?」
「いや? 確か、砂イルカは肉を好むはずなんだみゃー。シャトゥ殿をぶん投げてみるかみゃー?」
「シャトゥを食べさせたら、お腹を壊すかもじゃない。もっと美味しそうなモノを投げましょ?」
「ちょっと待つッス……。俺の肉がさも不味そうなことを言うのはやめるッス。確かに
シャトゥ=ツナーが辟易とした顔つきでそう言い、言われた側のナナ=ビュランはニコニコとした笑顔だ。そして、ネーコ=オッスゥはニヤニヤとした顔つきである。砂クジラに運んでもらっているこの状況下、皆、使命のことは忘れていたのであった。
そんな中、マスク・ド・タイラーが黒いパンツの中に両手を突っ込み、もぞもぞとしだす。そして、彼が両手を黒いパンツの中から引き抜くと、骨付きの生肉がその手に握られていたのであった。
「ほーれ! これでも食べるが良い! ハーハハッ!」
マスク・ド・タイラーが
「ちょっと待つッス! そんな美味しそうな肉があるなら、俺らに食べさせろッス!」
旅の道中、生肉などありつけることなどほとんどない。焚火でじっくりと焼けば、肉汁が溢れんばかりに流れ出しそうな骨付き生肉なのだ。それを砂イルカ如きに分け与えることはどういうことだと、シャトゥ=ツナーは文句を言ったのである。
「いやいや。この生肉は賞味期限が2週間ほど過ぎているんだぞ? まさに腐りかけの肉と言って良い。それでも、シャトゥくんはこの生肉を焼いて、食べたいのか?」
マスク・ド・タイラーの言いにシャトゥ=ツナーは、うぐっと喉を詰まらせることになる。肉は腐りかけが美味いと言われることがあるが、そんなことは無い。そいつの舌がおかしいだけの場合が多々あるのだ。
もちろん、野鳥などの肉は熟成させるために、血抜きだけの処理で済ませた後、家の軒に干すことはある。しかし、マスク・ド・タイラーが放り投げている肉は明らかに何かしらの動物の生肉だ。腐りかけにすることにより旨味が増すような類の肉でないことは確かであろう。
シャトゥ=ツナーはヨダレが垂れそうになるが、そこはグッと抑えようとする。だが、骨付き生肉を放り投げられた側の砂イルカたちがバクバクと美味しそうに、生肉をほうばる姿を見ていると、彼はくやしさの余り、右手の親指の爪を噛むことになる。
「くっそ!
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