第10話:右腕
ナナ=ビュラン、シャトゥ=ツナー、ネーコ=オッスゥの3人は『
しかしながら、マスク・ド・タイラーだけは違った。
「で? そのジャガなんとかという奴を探しにきたは良いが、見つからなかったと? もし、そいつがワニ顔の
「何を言っているノダ! ジャガ=ポティトゥはポティトゥ三大貴族の中で最弱と言われているガ、お前たちのような脆弱なニンゲンに倒されるほど、ヤワではナイ!!」
マウント=ポティトゥが覇気を含んだ怒号を飛ばし、眼の前のパンツ一丁の姿の上から黒い
「なにぃ!? 我輩の覇気をはじき返すダト!?」
「何が覇気だっ! 貴様たち
マウント=ポティトゥは、ウグゥ……と唸るしか他なかった。自分の身体から生み出される熱を相手にぶつけることで委縮させていることを的確に指摘され、額から流れ出る汗が頬を伝い、顎へと伝っていく。それを右手で拭ったあと、右腕を振るって、その汗を地面に向かって振り飛ばす。
「何故、ニンゲンが
マウント=ポティトゥは警戒心を最大限に上げて、眼の前のパンツ一丁の男に質問する。自分たちが
パンツ一丁の男は獅子を象った黒いマスクから鋭い眼光を発する。まるで、今にもマウント=ポティトゥに襲い掛からんとばかりの
「貴様たち、
マスク・ド・タイラーが胸の前で腕組みし、黒い
「な、なん……ダト!? 貴様があの『マスク・ド・タイラー』ダト!? そんなはずがあろうわけがナイッ! マスク・ド・タイラーは我輩らの先祖が切り刻んで、ツマーミ火山の火口に捨てたと言い伝えられているノダ! マスク・ド・タイラーが生きているわけがナイ!」
「ふんっ……。信じたくないなら、信じなければ良い……。だが、マスク・ド・タイラーの意思、生き様、そして矜持は、わたしの身体に受け継がれているっ! 貴様たち『魔族』を全員屠れとわたしの体内で雄叫びを上げているっ!」
マスク・ド・タイラーは吐き捨てるようにそう言いのける。そして、黒いパンツの中に両手をつっこむ。両手がパンツから抜き出されると、その両手は
「あの世で初代マスク・ド・タイラーに詫びろぉぉぉ!!」
マスク・ド・タイラーがマウント=ポティトゥの頭頂部目がけて、大槌を振り下ろす。しかし、彼が握る大槌はマウント=ポティトゥの頭を砕くことはなかった。
「ふふふっ。マウント=ポティトゥをやらせませんわ?」
マウント=ポティトゥの地面に映る長い影から飛び出すように現れたのは、ボロボロの紫色の
だが、大槌は彼女の剣戟により、どんどんと削られていき、ついには柄の部分まで斬り落とされていく。彼女にとって、
マスク・ド・タイラーはこれはたまらぬとばかりに、大きくバックステップをして、彼女から一気に身を離す。彼女は追撃をせずに口の端をニタリと歪ませる。まるで、いつでもトドメはさせるといわんばかりの余裕さえ見せるのであった。
「ふふふっ。マスク・ド・タイラー。わたくしの名前はコニャック=ポティトゥですわ。ポティトゥ三大貴族の中で最も美しく、最も強い……。それがわたくしですわ?」
彼女の台詞に驚かされるのはマスク・ド・タイラーだけではなかった。彼らの近くで身を震わせていたナナ=ビュラン、シャトゥ=ツナー、そしてネーコ=オッスゥたちは愕然とするしかなかった。
「そ、そんな……。あたしはてっきり、両腕を大木のように変えちゃうほうだと思っていたのに……」
「俺もそう思っていたッス……。でも
「すごいんだみゃー。てか、僕たち、完全に蚊帳の外な気がしないかみゃー?」
ネーコ=オッスゥが荷馬車の馬たちが暴れぬようにと、馬の首根っこを押さえながら、どうどうとあやしていたのであった。しかし、そんなことをしなくても馬たちもまたその身を震え上がらせていたのであった。この場から一歩動けば殺される。そんなことは野生の勘うんぬん関係なく、ひしひしと感じていたのであった。
「ナナ=ビュラン、シャトゥ=ツナー、ネーコ=オッスゥ! 男のほうは頼んだぞっ! わたしはコニャック=ポティトゥ相手で手がいっぱいになりそうだっ!!」
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