冒険記録50 半神

「あ、あなたいったい何者……?」


 目を見開いてヨシュアを見つめる魔法使い。彼女からは妖精が緑色に発光している綿毛のようにしか見えていない。捕まえて話しかけているヨシュアを不思議な目で見ていた。


「なんだ」

「妖精と話が出来るの?」

「それがなんだ」


 何を言っているんだというような目で魔法使いをヨシュアは見る。今回初めて魔法というものを目にしたヨシュアは、妖精の姿を見れて話すことの出来ることが普通ではないことを知らない。だから驚いた目で見られても、分からないのは当然だった。


「あ、妖精だ」


 ヨシュアの近くに座り、肩に乗って治療していた妖精を優しく手で包みこんで、自分の肩に乗せていた。


「おい、ヘルニー。あの女が会話出来るのとか聞いてくるんだが、そんなにおかしいことなのか?」

「普通は緑色の綿毛みたいにしか見えないし、会話は出来ないんだけど、君と僕は特別だよ」

「へぇ」


 1匹とたわむれているヘルニー。その間にヨシュアの治療を2匹の妖精がし続けている。顔の火傷痕はなくなり、残るは腕のみとなった。魔法で治しているとはいえ、とんでもない早さで治っていくのをまじかで見ているヨシュアは、目を輝かせていた。この世界の奴らはいつもこれほど早さの治療を受けているのかと呟いた彼に、ヘルニーは否定した。


「頭の怪我、気づいたら止まってたでしょ?」


 ヨシュアに近寄り、バンダナをめくる。小石が額にぶつかり傷が出来ていた場所は綺麗に消えていた。


「ああ」

「僕も同じく治療受けてたら早く治るよ」

「それは人ではない何かだからか」

「うん。怪我の具合にもよるけど、大きな怪我とかは1日かかったりするかな」


 1日と聞いて目を見開くヨシュア。それでもそれだけ早く治るというのはヨシュアにとって感動する材料となる。彼の世界は、まだ医療がそこまで発達していないからだ。もちろんポーションや魔法といったものはない。もし、あったとしても魔女裁判にかけられるだろう。


 海に生きる男達は壊血病かいけつびょうに日々震えながら、船旅をする。ヨシュアの野菜好きが高じて、仲間がなることはなかった。文句は言われまくっていたようだが。


「1日ありゃ次の日には船出出来る」

「君らしいね」


 真剣な顔で言うヨシュアにヘル二ーは楽しそうに笑う。

 治療が終わったのか妖精たちは、ヨシュアの頬に口づけをして消えた。何か意味があるのだろうと、ヘルニーを見る彼だったが、意味は何もなかった。

 立ち上がり、ヨシュアは自分の調子を確かめるため、肩を回す。異常などもなく、今まで以上に体が軽かったのだろう。その場で軽く飛んでいた。


「強いて言うなら忠誠かな」

「私に?」

「うん」


 女性の魔法使いに感謝を述べて、先に行くヨシュアの後を追いかけるヘルニー。走りながら先程のことについてヨシュアが質問していた。彼は自身が何者かまだ分かっていないが、この現場で人を助けていくことで半神へとなっているのだ。それを妖精たちは分かっていた。だから、頬に口付けをした。

 彼が了承するかどうかは別問題ではあるが、完全なものになるには女神と結婚しなくてはならない。体が変化したのもその為の準備だった。


「悪の道に進むためにか? それなら私は文献でみる魔王ってか?」

「違う違う。むしろ逆だよ」


 ヘルニーはヨシュアが半神になっていると直接言わないのは、アテリアと約束しているからだ。お叱りを受けることは無いが、彼女が自分の口で言いたいと言っていたため、黙っている。


「では何になっているというのだ」

「その答えはアテリア様に聞いてね。残念だけど、僕の口からは言えない」


 皆が救助をしている中でとんでもない早さで道を移動する2人は、余裕そうに会話をしている。最初は驚いていたヨシュアももう慣れてしまったのか、今は驚いていない。

 2人は走りながら流れるように救助していく。何が起きたが分からず、街の人たちは混乱していた。風が通ったと思えば、火事や瓦礫の中に取り残された者達が外にいて、火は消され、崩壊しそうな建物を魔法で支えていた者達からどこかに遠くに物が飛んでいく。

 その間もヨシュアとヘルニーは会話し続けている。唯一見れた者に何がどうなったのか、その場に残された人たちが説明してくれと、せがんでいた。


「お主たち! 少し手伝ってくれんかの」

「誰かと思えばじいさんか」

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