冒険記録49 救助
「うわぁあああん」
子どもの泣き声がする。その声を元に、いる場所をヨシュアは探し始めた。煙を吸い込んだのだろう。時々せき込みながら「お父さん」と呼び、泣いている声が聞こえてくる。片手では木材を退かすことは出来ない。その時に吸い込んでしまったのか彼もせき込んでいた。それでも探すのは止めなかった。腕まで焼けようと気にしていない。退かし続けた先に子供が2人。1人は煙を吸い込み過ぎて意識がなかった。父親ではない相手が助けに来て、不安そうに瞳を揺らす少年。有無を言わさずヨシュアは2人を抱え、ドアまで走っていく。
「くそ」
周りを確認してもどこにも出口は見つからない。戻ろうにもすでに後ろは塞がれていた。意を決したヨシュアは、玄関前から少しだけ下がり、聞こえるように大きい声で外にいる者達に注意する。「ドアの近くから離れろ」と。聞こえていたことを願って、ドアに向けて片足を上げた。海の上で生きてきた脚力と尋常ではない力を使って、瓦礫ごとドアを蹴破ろうとしているのだ。
「おじさん……」
「手で口と鼻を押さえてろ。それ以上煙を吸い込むと隣のガキンチョみたいになるぞ」
涙声でヨシュアの顔を不安そうに見上げる子供。外に出ようとヨシュアは何度もドアを蹴り、外側に歪んでいく。瓦礫と共にドアが豪快に外に飛び出す。出る前に外に向けてヨシュアが出した声を聞いていた者達は、ドアの直線状にはいなかった。両腕と顔の一部に火傷を負っているヨシュアを見た魔法使いの1人が、治癒しようと近づいてくるが、彼は拒否した。抱えて来た子が誰の子か問いかけている暇はない彼は、意識がない子と一緒に地面に降ろし、また燃え盛る火の中に戻っていく。
ヘルニーが戻ってきていなかった。どこかでまだ探しているのか、それとも2人抱えて移動することが出来ないのか。
「ヘルニー、どこにいる」
「こっち!」
ここが完全に崩壊する時間も残り少ない。その間に見つけて外に出なくてはならなかった。場所を知らせるヘルニーの声を元にヨシュアは探していく。落ちてくる木材に気を付けながら声を出し続けるヘルニーの元へ向かうと、瓦礫が落ちた反対側にいた。子供2人とも意識はあるようだ。だが、火の勢いと瓦礫でヨシュア側に来れなかった。
「こっちに投げられるか?」
「難しいかな」
木材と石が邪魔になり、もし投げたら怪我どころでは済まないだろう。どんどん強くなっていく火に迷っている暇はない。ヨシュアが瓦礫を飛び越えて子供2人を肩に抱えると、瓦礫をまた飛び越えた。ヘルニーも相次いで飛び越えたのを確認すると、2人は出口へと向かう。途中焼けた木材が落ちてきたり、爆発したりを繰り返しながら、先程ヨシュアが蹴破ったドアから脱出する。
抱えていた子供をヨシュアは地面に降ろすと、彼はせき込みながらこの場を離れようとした。顔半分を被うほどの火傷に、両腕で無事なところが見つからないほどの怪我を負う。その姿のまま次の場所に行こうとするヨシュアを、魔法使いが止めた。
「このままここにいてください」
ヨシュアは何も話さないまま地面に座り、大人しく治療を受けることにした。
『癒しの精霊よ、彼を癒したまえ』
この世界に来て、今、初めて彼は呪文を聞いた。人ではないものになったからこそ分かるようになったのだ。そして、魔法も見えるようになった。今まで彼の愛馬、アルヴァーノが攻撃をしていても見えなかった。それは魔力がなかったから。
魔法が使えないというものはこの世界にはたくさんいるが、まったくないという者は居なかった。少なからず魔法が見えるくらいの魔力は持っていた。
だが、ヨシュアは違った。違う世界の住人で、魔法というものに縁がない。魔力というものもあの世界にはない。だから見えなかったし、言葉も理解出来なかったのだ。
彼の周りを小さい妖精が飛び交っている。飛び回るたび緑色の粉が彼の体の中に入り癒していく。
「妖精ってやつか。初めて見たな。ただ」
目の前を飛んでいた妖精をヨシュアは掴み、どこかに投げる前の動作をする。
「お願い、投げないで」
「はたき落したくなるから周りを飛ぶの止めてくれ」
「わかった」
ヨシュアの周りを飛んでいた妖精たちが彼の行動に怯えていた。掴まれていた妖精が頷くと、彼は手をそっと離し、離れた妖精は彼の頭の上に乗る。そこから他のは同じように彼の肩に乗って、治療し始めた。
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