冒険記録4 魔法が見えない男
「モウ、オワリ、カ」
『アイスニードル!』
服に血を付けながら、武術家との戦いの余韻に浸るヨシュアの耳に届いた言葉。
いかにも魔女といった格好をした女の子が、縦に渦を巻いた杖を振り降ろし、ヨシュアに向けている。
「ン? アイス?」
言葉を放っただけで何もしてこない。
そんな女の子を不思議そうに見ながら、風を切る音で何かが飛んでくると予測し、今までで培ってきた勘を使いながらサーベルで対処しつつ、避けていた。
全て躱す事は出来ないのか、頬や腕に傷がついていく。
「ミエナイこうげきカ! いたみガアルシ、ソレニつめたい」
永遠に続くのではないかというぐらいに、ヨシュアと魔法使いの女の子は戦い続けていた。
しばらくして、風を切る音が聞こえなくなったのを確認して立ち止まり、紙で指を切ったような鋭い痛みを頬に感じた彼は、自分の切り傷から流れる血を指で拭い、凝視している。
拭った親指から、鉄臭さと微かに揺らめく透き通った煙が立ち上っていた。
魔法というものが古来からあることをヨシュアは知っていたが、実際に体験できるとは思っていなかった彼は、興奮する気持ちを抑えることはしなかった。
むしろ、高鳴る鼓動が激しさを増すだけだった。
「な、なんで避けられるの?!」
「イヤ、すこしダケ、カスッタ」
魔法使いの子は、今まで自分の魔法が避けられたことが無かったかのか、信じられないといった顔で驚いている。周りの反応も同じだった。
そんな様子を見つつ、血が付いた親指を舐めながら魔法使いの女の子を見る。
その目は得物を見つけた肉食獣のようにぎらついていた。
その視線を受けた子は、体を震わせ、青ざめている。
「マダ、ほかニモ、あるノ、ダロウ? まほう、ト、いうヤツ」
唇を歪ませながら笑い、次の攻撃をしてこいと女の子に促す。
どのくらい魔法を放てるのかはヨシュア自身には分からない。
だが、知らないことを経験できるこの状況は、彼にとって学びの時間だった。
『ボ、ボーライド!』
「ソレハ……!」
女の子が動揺しつつも放った言葉に聞き覚えがあったのか、先程の攻撃よりも距離を取る。
相変わらず攻撃は見えていないが、直感に頼りながら避けている。
そのお陰で自身に当たることは無かった。
だが、何かが地面に直撃した瞬間、爆発が起き、ヨシュアに被る様に砂が舞い上がった。
「〝
爆風で煽られる砂や小石から顔を腕で庇いつつ、地面を見る。
落ちてきた何かは地面を抉り、いくつもの大穴を開けていた。
「また避けやがった」
「ソレホド、フシギ、カ? ア……フク、ガ、ヤブケテル、ナ」
冒険者のリーダーが驚く中、服や頭に付いた砂埃を叩いて落としていた。
服の細部まで見渡し、裾が焦げて破けていることに少しだけショックを受けるヨシュア。
「コレシカ持ッテイナイノニ」と愚痴を溢しながら。
「マァ、イイカ。……ソレデ? ほかニハ、ないノカ?」
「ば、化け物……」
攻撃が見えていないはずなのに余裕そうな顔で避けているヨシュアの動きを見て、魔法使いの女の子は戦慄している。
「”
神の力を使い、無限に魔法を撃てると勘違いしている彼は次を促がす。
女の子の息が上がっている様子を見て、残念そうにため息を吐いた。
「コレデ、ほんとニ、オワリ、なのカ? ザンネンだな」
杖で体を支えながら地面に座り込んでいる姿を見ながら、物足りなさそうに見ていた。
魔法に触れる機会など早々ない。
そんな今だからこそ、もっと知れると思って期待していたヨシュアだったが、彼女の様子で、これ以上魔法を撃つことは出来ないだろうと判断し、諦めた。
「アトデ、まほう、オシエテ、クレ、ナ? まほう、ツカイノ、オジョーチャン」
疲れている女の子と無理矢理戦う気はないのか、一言残し、剣を構えて警戒している男に目を向けた。
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