【完】海賊、異世界で旅を続ける

やさか

序幕



 甲板の上で海賊たちがうたげを繰り広げていた。

 騒いでいる理由は、日中にっちゅうに襲った敵船の中に大量の金貨とラム酒、それに加え、新鮮な肉や野菜を手に入れる事が出来たからだ。


 日々、過酷かこくな環境を生きる海賊達の主な食料は、ハードタックと呼ばれる硬いビスケットや豆類、そして水代わりの酒だった。食料にありつけない時は、鞄の皮を細かく切って食べることもあるほど。

 毎日食べる事は出来ずとも、少しでも食料があるならばそれを工夫し、生活していたのだ。


 だが今日は、大量の食料が手に入った。

 それを祝うかのように海賊達は宴を繰り広げ、寝ることもせず騒いでいる。


 そんな中、早い段階で酔いが回ったヨシュアは船長室にそなえられてあるベッドで熟睡じゅくすいしていた。

 部下達の騒いでいる声と静かに響く波の音を聞きながら。


 普段ならば、自分がどれほどの量を飲めるかを把握している。いつ敵が来ても対処できるようにと。


 だが、この日は久しぶりのうたげでいつも以上に飲んでしまっていたのだ。

 それ故に気づくことが出来なかった。







 ベッドごと自身が転送されたことに。

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