第15話「重戦車化?」

「こ、こりゃ、壮観だな……───」

 馬車にて、門前に運ばれたアルガス。


 フラフラとした足取りで、

 朦朧とする意識のなか、門の先に立ち塞がる軍勢を見てひとりごちた。


「ア、アルガスさん……」


 ミィナが不安そうにアルガスを見上げ、手をきゅっと握りしめた。

 その頭に手を置き、サワサワと軽く撫でるアルガス。


「大丈夫だ……。任せろ───ミィナはいつも通り、再装填を頼む」


「う、うん」


 よろめく体でふんばり、ミィナを抱き上げる。

 あとは、重戦車化すればミィナを搭乗させた状態で、男爵軍を迎え撃つことができる。


 ティーガーⅠなら、人間が使う武器も魔法も、ものともしないだろう。


 いくら数が多くても、鎧袖一触。

 勝利はゆるぎない……。


 ティーガーは最強なのだ。


「リーグ、街の守りは?」

「え? あ、はい。……え~っと、自警団をかき集めて150……有志の青年団を武装化して100。冒険者を雇って20といったところでしょうか」


 自信なさげに答えるリーグ。


 約300程を下回る手勢か……。

 しかも、練度は怪しい。


 そして、男爵の軍勢はアルガスの正面だけでも───掴みで、800〜1000ほど。

 アルガス抜きでは勝ち目はないということか……。


「ここは俺一人でやる。……リーグは手勢を引き連れて、各門のほうにも警備を送れ。奴等、こうもあからさまに包囲にきてるんだ。ここだけに兵力を集中してるとは思えない」


「わ、わかりました。ですが……」


 言いたいことはわかる。


 リーグは所詮、副ギルドマスターでしかない。

 自警団への指揮権などないのだろう。


 だがそれでもやらねばという決意の元、

 大金で雇った冒険者を引き連れて、テキパキと指示を下していく。


 武装した自警団は、独自に動くらしい。

 緊張感あふれる顔持ちで彼らも各部署に散っていった。


 これで最低限、街の守りは保たれるだろう。

 アルガスがいくら無敵の強さでも、一人では防ぎきれるものではない。


 別にベームスの街に拘りがあるわけではないが、仕事として引き受けた以上やるべきことはやる。


 それが冒険者としての矜持だ。


 ゆえに、仕事として引き受けた以上──シーリンの言わんとすることも一ミリ程度なら理解できなくもない。

 とはいえ、やられた側としてはそれで納得する気など毛頭なかった。


「あのガキが……」


 体調不良が思考を溶かしていく。

 これは、あとできっちりと落とし前をつけてやる。


 体とか体とか体で───とか、あと色々と!


 そう、決意を胸に、アルガスは崩れ落ちた城門を抜け、街から荒野へと向かう。


 ズシン、ズシン!

 重々しい鎧に、タワーシールド。


 いつものアルガス。いつもの重戦士スタイルだ。


 そうして、門からでて、不敵に男爵軍を見渡したその瞬間──男爵軍から猛烈な殺意が飛び交い、アルガスを刺し貫かんとする。


「───ははッ。会ったこともない男爵に、随分嫌われたものだ」


 ニヒルに笑うアルガス。

 その目前に、一騎の騎馬がゆっくりとやってくる。


 カッポカッポ───……。

 ブルヒヒヒ~~~~~ン!!


 (ナポレオンポーズを決め───)


「私はリリムダの地を陛下より賜り、治める領主が一人、リリムダ・ド・シュルカン──貴公、S級冒険者のアルガス・ハイデマンとお見受けする」


「…………はは。本当に名乗りをあげるんだな? 貴族って奴は、」

「み、ミィナだよー」


 ムキっ、と腕に力こぶを作ってミィナがアピール。


 いや……せんでええから。


「ふむ───聞きしに勝る下賤よな。作法も知らぬと見える。ならば結構、貴公が我が息子……この地を統治していた代官を討った賊。これで相違ないな?」


 …………やはり仇討か。


 貴族って奴は、メンツが命より大事ってのは本当らしい。


「───だいたいはあっているが、ゴホッゴホッ……。賊は代官のほうだ。あとなぁ、代官をぶっ飛ばしはしたが、殺した覚えはない」


「なに? この期に及んで命乞いのつもりか? そんなおためごかし───」


「ゲホッ……! はっ。どの道ヤル気で来てるんだろ? 命乞いなんざ安い真似をするかよ───事実を言ったまで、」


「ほう? ならば、我が息子は?」


「知らん。おいたが過ぎたようなのでな、街の住民に拘束された後は、俺も姿を見ていない───グフッ……!」


 ふむ。と思案し、顎を撫でる男爵。


 一方でアルガスは、激しくせき込み口に溢れた血の味を必死で誤魔化していた。

 ミィナが心配そうに見上げているが、今は構うこともできない。


「ふむふむ…………結構、結構。いずれにしても、街と貴公を討つという大義に変化はなさそうだ───あとは、」

「だろうな……。俺がぶん殴った事実は変わらん。街にも責任はあるだろうさ。───だから、」


 ゲホッ…………!

 ポタタタ……! 


 ──あとは、


「「語るに及ばず───!!」」


 サッと、男爵が手をあげ軍勢に合図を送る。

 同時にアルガスは吐血しつつも、「重戦車化」する。


「───いけっ! リリムダの勇者たちよ! 怨敵を討ち、街を蹂躙せよ!」


 おおおおおおうう!!!!


「させるかッ───ゲホッ……! く、重戦車化!!!」



   カッ─────────!!



 ザムザムザムッ!! と、地響きを響かせながら侵攻を開始した男爵軍の目前で、アルガスの体が光り輝く!


「な、なんだ?! 魔法か───??」


 顔を覆い、目を細めた男爵が驚愕に目を見開き、馬を後退させる。

 その眼前で、アルガスの体が猛烈な光に包まれ巨大に変化していく!!



 そう、巨大に………………。


 巨大………………?

 きょ……………?



 巨大、か…………これ?



 あ、あれれ?

 なんか、いつもより─────……。


 ぼう、と遠のく意識。


 重戦車化の影響で、人から武骨な機械へと変身するその瞬間のトリップに、

 アルガスの意識は混濁していく。


 そんな中で、光り輝くステータス画面。





名 前:アルガス・ハイデマン

職 業:重戦車(ティーガーⅠ)


体 力:1202(- 601)

筋 力: 906(- 453)

防御力:9999(-4999)

魔 力:  38(-  19)

敏 捷:  58(-  29)

抵抗力: 122(-  61)


※ 状態異常:中毒




《───状態異常確認》


 「重戦車ヘビィタンク」化 ⇒ 条件不達成 ⇒ 「防御力」を『中』と認定。




 新戦車覚醒ラーニング完了コンプリート──────!!




 「重戦車ヘヴィタンク」 改め 「中戦ミドルタ








 ─────────ゴフッ…………。







 意識の奥底で、アルガスは吐血し、無情にも敵前で意識を失う。

 どこか遠くの方で、ミィナが必死に呼びかけている気配がしたものの…………。



 アルガスは、あっけなく意識を手放した……………………………。

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