第6話「遠慮の二文字を知ってるかね?」
ブスッとした雰囲気を隠しもしない少女は、アルガス用に注がれたエールを勝手に取ると、グビグビ。
「おい、誰が飲めっつったよ」
「うっさいなー。なんやねん、このオッサン」
こっちのセリフだ。
面倒くさくなったので、もう一杯エールを注文し、ミィナには果実ジュースを別に頼んでおく。
「もらうでー」
ツマミも勝手に、ポリポリ食い始めたのでさらにムカつく。
「ち……。おい、だから誰が食えっつったよ。……だいたい、要件は何だ? 俺はお前みたいな厚かましい奴に、知り合いはいなかったはずだが……」
「アタシもアンタみたいな無礼な奴と知り合いとちゃうわ───あと、
どっちが無礼なんだよ。
名前とかどーでもええわ。
女子供だから殴られないとか思ってんじゃないぞ。
「で?」
「ふん───預かりもんや」
預かりもん?
そう言って、シーリンが差し出したのは……、
「──────リズ?!」
手紙?
そして、差出人の名前を見て、アルガスがいきなり前のめりになる。
「……び、ビックリしたぁー! 食われるかと思ったやん?!」
誰が食うかッ!
その割にはしっかりとジョッキとツマミを確保していやがるし……。
だが、テーブルの上は、アルガスの動きによってグッチャグチャ。
ミィナが、ジュースをブッ被って茫然としている。
「び、びちょびちょー……」
だが、アルガスにはミィナを気遣う余裕すらない。
シーリンの肩を掴んでガックンガックンと揺さぶると──。
「おまッ! これをどこで?!……おいッ! さっさと答えろ!!」
「ちょ! なんやねん?! や、やめぇや!!」
その拍子に、彼女の服がビリリと破れて、肩が覗く。
「きゃッ?! きゃぁぁあああ!! な、ななななな。なにすんねん?! こんな人目のあるところでえぇぇえ!!────ちょっ、や、やめぇや! だれか、誰かぁぁー! 犯されるぅぅうう!」
「犯すかボケぇぇぇえッ! いいから答えろッ!」
もはや、狂犬のごとく興奮するアルガス。
ようやく探し求めていた答えがここにあるのだ。当然のことだろう。……だが、ミィナがその足を掴んだ。
「アルガスさん止ーめーてー! お姉ちゃん何も悪いことしてないよ?! ねぇ!!」
「ぬ……?!」
ミィナに引っ張られたくらいでアルガスはビクともしないが、その悲壮な声にハッと我に返る。
「アルガスさんヤメテぇぇぇ! ねぇぇってば!」
グイグイと力いっぱい引っ張るミィナ。
その間、シーリンは体を庇うようにして赤面している。
そこで、ようやく自分のやったことに気付く。
「あ……。す、すまん」
シーリンを離すと、ドサリと椅子に腰かけ自分の手を見て、そして顔を覆う。
(しまった……。やっちまった)
いくら無礼な少女相手とはいえ、完全に行き過ぎだ。
「え、ええわい。許したる───ほ、ほな、渡したで?」
それだけ言うと、シーリンは立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ。すまなかった……何か詫びをさせてくれ」
素直に頭を下げるアルガス。
あっさりと許してくれたが、少女の服を破ったのは事実。
時と場合によっては
「ええて、ええて。アタシも初対面でぶん殴ってもーたでな。それでチャラや」
「すまん……。せめて奢らせてくれ」
そう言って、アルガスは給仕に適当に大盛りのセットを注文する。
シーリンは良いというが、まだ話を聞きたいというのもある。
ようやく見つけたリズの手がかりだ。
それに、悪い奴じゃあなさそうだ。
普通──……冒険者なら、こんな
探し人の手紙だ。アルガスなら万金を払ってでも欲しがるのは目に見えている。
……場合によっては、これを元に揺すったりする連中なんかゴマンといるだろう。
「ん?……ほうか? ほな、遠慮なく!」
去っていくかと思いきや、シーリンはあっさりと席に戻った。
そして、給仕にさらに追加注文。
「あ! お姉さ~ん、高級チーズのわがままピザと、このー……超高級ステーキを、レアで、あと、金小麦の柔らかパンと、この高そうな卵の入ったスープを頂戴。あ、お支払いはこのお兄さんに」
前言撤回。
悪い奴だ。
「私も食べゆー!」
…………うん。
ミィナちゃんも調子にのらないの!!
はいはーい! って、二人揃って手をあげて給仕さんにアピール。
っていうか、おばちゃん?
なにを
今の二人前?!
ここのメニューは基本安物だけど、上級の冒険者用にスゲー高級品もあるのだ。
それも、金貨で払うクラスの……。
「………………食いながらでいいから、話は聞かせてくれよ」
疲れた表情でアルガスは席に沈んだ。
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