第4話「昼飲み親父」
ギルドは街中と違って、アルガスをちやほやする人間が少なくていい。
むしろ、嫉妬交じりの視線で見られているくらいだ。
地元の冒険者はともかく、流れの冒険者や街出身者以外の冒険者連中にとって、街の英雄だとかの話は、どうでもいいのだろう。
ズシン、ズシン、と歩きつつ、冒険者を威圧(別に威圧しているつもりはない……)しながら、アルガスは酒場の奥の方───入り口が見える席についた。
ここなら、窓からミィナの姿も見える。
「エールと、……後は適当にツマミを」
「は~い」
クエスト中に行動食として飯を食べたので、腹が減っているわけではない。
給仕に来た店員に酒を注文すると、どっかりと席に着き腰を押しつかせる。
「……俺に用事ねぇ?」
一体、誰だろうか?
ちょっと想像がつかないな……。
これがもし街の住民だったり、大手のパーティやギルドならば、ハニートラップを疑うのだが、聞けばソロ冒険者だという。
しかも、若い女性……。
「……………………皆目、見当がつかんな」
ソロ冒険者がアルガスを勧誘するとはちょっと想像がつかない。単独で冒険者をしているものは、ある意味、そのスタイルで冒険者課業が完成しているのだ。それがためにアルガスのような中堅以上の冒険者を勧誘するというのは、普通はあり得ない。
クエストの事情では臨時で冒険者を雇うこともあるだろうが、それはそれで専門職にお声がかかるものだ。
アンデッド退治なら神官。
お宝情報ならシーフ……といった具合に──。
つまり、そこに重戦士のはいる隙間はない。
「……まぁいいさ」
どうせ、会えばわかる。
暇だし、しょうもない話以外なら──相手をするのもやぶさかではない。
「お待ちどうさまー」
運ばれてきた安いエールで喉を潤しつつ、ツマミの炒った豆をポリポリ。
うん……塩味が旨い。
特にすることもないので、ノンビリと飲んだり食べつつ、手持ち無沙汰なのでステータス画面を弄る。
ブゥン……!
名 前:アルガス・ハイデマン
職 業:重戦車(ティーガーⅠ)
体 力:1202
筋 力: 906
防御力:9999
魔 力: 38
敏 捷: 58
抵抗力: 122
※ 状態異常なし
残ステータスポイント「+2304」
スキル:スロット1「
スロット2「
スロット3「
スロット4「
スロット5「未設定」
スロット6「未設定」
スロット7「未設定」
スロット8「未設定」
習得スキル:「
「
「荒野迷彩」
重戦車:ラーニング済み
(その1)ティーガーⅠ
「ふむ…………」
…………………………………わからんッ!!
なんだこのスキルは??
見たことも聞いたこともないものばかり。
(とりあえずヘルプだな)
ぽちー
アルガスはステータスを弄り、ヘルプなどを参照していく。
傍から見れば、ブツブツと怪しい人MAXだが、ギルド内では他の冒険者も結構やっているのだ。
スキル「
スキル「
(う、うーむ。どうやら、ティーガーを最大限に活かすスキルらしいが……)
他にも、大量のステータスポイントの割り振りをどうしたものか。
(2000ポイントもある……)
だが、現状はステータスを弄る必要はない。
……なにせ、ティーガーⅠが強すぎて、そも、その必要性を感じられないし──。
(まぁいい。いつか、必要な時のためにプールしておこう)
取りあえず、スキルはスロットに収めるだけ収めておく
ぽちぽち。
スキル:スロット1「
スロット2「
スロット3「
スロット4「
スロット5「
スロット6「荒野迷彩」(NEW!)
スロット7「
スロット8「未設定」
あとは、使いながら任意に変えていこう。
というかティーガーⅠが
デメリットといえば、使用後はやたらと腹が減るし、多少なりとも魔力などが減っているが、所詮はスキルの範疇だ。
ザラディンやメイベルの魔法とは異なり、使用制限がほとんどない。
近い所で言うならジェイスの雷光剣や、
リズの弓による「
あれらも武器さえ無事なら、体力の続く限りいくらでも撃てる。
もっとも、攻撃時のモーションの大きさや範囲の指定などができないので使いどころが限られるのがデメリットではある。
それは、ティーガーの戦車砲でも同じこと……。
だから、腕のいい冒険者ほどスキルを乱発するより単純に剣技などの一撃に重きを置くのだ。
そして、アルガスもどちらかというとそっち側だ。
……リズにも、そういった方法で冒険者をやるように教えていた。
(もっとも、リズを手放してしまった以上、正しかったのかどうか……)
そっと、窓から見える荒野の果てに手を伸ばすアルガス。
リズの面影が見える気がして──……小さく、拳を握る。……もちろん、リズがいるはずもないのだが。
──ただ、育て方を間違ったとは思っていない。
冒険者はスキルだけを使えて、敵をボカスカ倒せればいいものではないのだ。
たしかに、ジェイスは強いし、ザラディンやメイベルもかなりの使い手だが、それに
実際、街で技を競うだけならそれで十分だろう。
だが、冒険者とは───これすなわち魔物だけを相手にする商売ではない。
時には自然。
時には悪意。
時には───味方……。
そうした臨機に対して、素早く適応できなければ何処かで必ず失敗する。
そう。ジェイスの悪意を知りながらも、対処できなかったアルガスのように……。
なにより、アルガスの失敗は、ジェイスのような『権威』に対して、それを突っぱねるだけの機転が利かなかったことだろう。
だからリズを見失った……。
痛恨のミスだ。
(くそッ!)
バリンッ……。
自分のミスに腹が立ち、知らず知らずの内に力が籠っていたのか、ジョッキを割り砕いてしまった。
(──俺も、まだまだだな……)
周囲の冒険者が、ギョッとした目をしていたが無視。
給仕に謝罪して代わりのジョッキを貰い、手付の金を渡しておく。
中堅冒険者のつもりでいたが、とんでもない誤解だった……。
今更取り返しはつかないが──それでも……。
琥珀色の輝くエールを見つめながら、
そのオカワリの酒精に、口を付けようと───、
──ドガァァァァアアアアン!!!
「うわ?!」
「なんだぁ?!」
「カチコミかぁぁああ!」
「「「ひぇぇぇえええ!?」」」
一斉に立ち上がる冒険者に、縮みあがるギルド職員。
濛々と立ち込める埃の先には──ギルドのスイングドアを蹴り飛ばして、乱入してきた小さな影が2つ。
「って、おいおい? ミィナか?!」
そう。ひとつは、小脇に抱えられたミィナ。
そして、ふたつ目は………………、
「この子の保護者っちゅうんは、どいつやぁぁああ!」
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