第3話「待ち人の気配」
カランカラーン♪
入店を告げるカウベルが鳴る。
今まではなかったものだが、どうやら急造したらしい。
ほんの数日前まで、ギルドマスターの不正だとかの調査のため、王都からきた監察が入ったせいでドタバタしていたが、だいぶ落ち着いたようだ。
やむを得ず、外に引っ張り出されていた依頼用掲示板や、臨時受付も今は片付けられている。
閑散とした雰囲気の、シンと静まり返ったギルド内──。
奥に併設されている酒場では数人の冒険者が管をまいており、安酒をチビリチビリと飲んでいた。
ギロッ!!
アルガス達ギルドに入った瞬間、一瞬だけ鋭い視線をアルガスに飛ばす冒険者たちも、それが話題の人物だと気付いたのか、そそくさを視線を逸らす。
「ふむ……」
そんな視線はガン無視しつつ、
アルガスがカウンターに向かうと、数人のギルド員がデスクに突っ伏してぐったりとしていた。
「おい、……おい!!」
コンコン! とカウンターをノックしても反応がないものだから、ついつい声を荒げてしまった。
「んぁ……?」
すると、ようやく一人の職員が起き出しノロノロとカウンターまでやってきた。
「よ、ようこそ当ギルドへ」
「おう」
「……あ」
最近、馴染みになってきたギルド職員。
聞けば、コイツ───実は副ギルドマスターだとか。
名は、
「───リーグです。いい加減覚えてください」
疲れた顔のリーグ。
結局ギルドマスターは名前を覚えるまでにくたばっちまった。
「すまんすまん。ところでどうした? 随分疲れてないか?」
「あ、す、すみません……色々ありまして、その───」
あーうん。
まぁ、だいたいわかる。
「ま、それはいいや。で、ようやく本格的に再開ってことでいいんだよな? そういえば、セリーナ嬢は逮捕されたんだって?」
「え、えぇ。まぁ、はい……。他にも、王都の監察が早馬で来まして」
ありゃ、まぁー……!
「お、おいおい。話には聞いてたが、マジかよ───どれだけ離れてると思ってるんだ?」
「たはは……驚きました。すでに色々内偵が進んでいたみたいです───こんなチャンスを窺っていたんでしょうね」
そう言って、あのマスターのせいですよ。と疲れた口調で言う。
先日の騒動があってすぐに、ギルドの監察が乗り込んできたという。
目的はギルドマスターの不正と代官との癒着。その他諸々だ。
まぁ叩けば埃の出る人物だったらしく、出るわ出るわのテンヤワンヤ。
「大丈夫なのか? そんな調子でこのギルド……」
「さぁ? なんとも……。取りあえず、出来ることをやるだけですよ、私どもは」
そう言って、力なく笑うギルド員に同情する。
どうせなら、こうした真面目な職員が報われて欲しいものだ。
「それで、本日のご用向きは?」
「あぁ、スマン。クエスト達成報告と──」
「えぇ……『
そうか……。
もし情報があるならば、こんなところでいつまでも管をまかなくて済むのだが……クソッ!
いっそ、自ら荒野に足を運ぶか? そのほうが確実かもしれない──。
「──申し訳ありません。当ギルドがご迷惑をおかけしたことも含めて、最重要案件として照会しております。い、今しばらく、お時間を……!」
本当に申し訳なさそうにリーグが頭を下げる。
このやり取りも随分と続いている。
仕方がないこととはいえ、いら立ちは募る一方だ。
「ですが───その、アルガスさんに会いたいという人物が来ておりまして……」
クエスト達成の証明として、採取した薬草と、近隣で退治したコボルトの耳とゴブリンの耳をカウンターに置きながら、アルガスは不機嫌な顔で言う。
「あ?! 勧誘なら、お断りだぞ……。パーティは間に合ってる」
あれ以来、ちょこちょこと勧誘の話が来ている。
どれもこれも、そこそこの規模のパーティやクランだった。もっとも、どれも受ける気はない。
リーグは受け取った討伐証明を、奥の職員に渡しつつ、
「い、いえ。パーティ勧誘ではなさそうでしたよ?……その、若い女性でした」
「何?!」
リーグの言葉にアルガスは食い気味に体を乗り出す。
その様子にリーグは仰け反りつつも、
「落ち着いてください。リズさんではありません───もちろんメイベル女史でもありまんよ」
メイベルはどうでもいい。
……しかし、リズでもないなら誰だ?
俺に知り合いの若い女性なんていたっけ?
居なくはないけど……。
チラッとミィナを見る。
「ほぇ?」
これは若い女性というか、若すぎる女性だしな……。
「今、そいつはどこだ? というか、何の要件だ?」
「───さて、そこまでは……。今朝方来られて、また顔を出すと言っておりましたね、クエストを受注していきましたので今日にでも戻るとは思いますが」
クエストを受注?
冒険者……なのか?
しかし、リーグの言う通り、勧誘の類ではなさそうだ。
「まぁ、いい。聞けばわかるさ」
とりとめもなく話ながらも、アルガスとリーグは慣れた様子でクエスト達成の報告を整えていく。
数枚の銀貨と銅貨が、お盆にのせられ恭しく差し出されると、それを無造作に受け取り、ミィナが首から下げているガマグチ財布に放り込む。
「ほら、お駄賃だ。……菓子でも買ってこい。───いつものやつ覚えてるな?」
「は~い♪ えっと、『知らない奴から物を貰わない。知らない奴に着いていかない。ジェイスは殺す』♪ だお!」
うん、最後のは……ちゃうねん。
いつも口癖みたいにいってたから、ミィナちゃんが勝手に覚えただけやねん。
り、リーグさんや? そ、そんな目で見るない!
「──子供に、なに教えてるんですか……」
そんな呆れた風に言うない。
………………事実だけどな。
「よく言えたな、行ってこい」
「ありがとー。アルガスさん!」
「んむ」
って、あっ。
まずい、近くにいろっていうの忘れた──……ミィナのやつ止める間もなく言っちまったが、みるに、ギルドの向かいにある露店街に行ったのだろう。
ガマグチ財布をブンブン振り回しながら、あっちこっちの露店に顔を出しているミィナの姿が見えた。
「ふむ……」
ちょっと心配だが、この距離なら目が届く。
何かあれば、これくらいなら対処できるだろう。最悪、ティーガーになって駆け付ければいいのだ。
「アルガスさん……」
ジト目のリーグ。
おっと、
「…………子供は元気が一番だ」
「いや、誤魔化せてませんから───どうします? 彼女に何か言付けます?」
ふむ……。
もう昼過ぎだし、待ってりゃそのうち帰ってくるらしいしな。
実際、ギルドからの連絡待ちをしている以外にこの街でやることはない。
宿に戻ってゴロゴロするのもミィナの教育上よろしくない。
「……いや、奥で待つ」
そう言って、併設されている酒場を、親指で指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます