第95話

「皆よく集まってくれました。

 ここに生えている麦を刈り取ってください」


「「「「「はい!」」」」」


 王宮から戻った私は、精霊達から教わった複合精霊術を、王都屋敷で試してみることにしたのです。

 兄上はまだ王太子の御守りで帰ってこれないようです。

 父上と母上、ローマンが確認してくれています。


 並の家臣に見られるわけにはいきませんが、父上と母上だけでなく、王都屋敷を預かるハウス・スチュワードのローマンが知ってくれていないと、非常時に諫言してくれる者がいなくなります。


 私は王都屋敷の果樹園と野菜畑で実験をしたのです。

 四柱の精霊力を組み合わせ、タマやムクの魔力の助けを借りて、果物を早く実らせたり、野菜を早く育てる実験なのです。

 精霊達はできると断言してくれていますが、信じられない力です。

 今までの常識からは全く考えられないことなのです。


 もしそんなことが本当にできるのなら、生き物まで急速に成長させられるではありませんか。

 植物にできることなら、動物にだったできるはずです。

 そう考えれば、いかに非常識な事なのか理解していただけるはずです。

 だから父上も母上もローマンも、不信の塊のような表情を浮かべています。


 私も信じられない思いではありますが、主人である私が精霊達を信じないわけにはいかないので、疑念を抑え込んで信じようとしました。

 いえ、正直に言えば、本当は疑念以上の根拠のない自信があったのです。

 今思えば、真実を知っている精霊達の自信が伝わっていたのだと思います。


 実際にできたのです。

 果樹園の果物が次々と実りました。

 季節外れの果物さえ、木々が花咲き実がなるのです。

 あまりのことに、父上も母上もローマンも愕然としています。

 驚いていないのは、唯一護衛についているリリアン達だけです。


 次に野菜畑に植えてあるものを成長させてみましたが、あっという間に食べられる大きさにまで成長しました。

 種にしたものを蒔いて一から成長させてもみましたが、瞬く間に食べられる大きさにまで成長してくれました。

 多くの果物と野菜を使用人達を集めて収穫しました。


 その日はそれで解散したのですが、翌日同じように実験してみました。

 私の魔力というか、精霊力というべきか、力はどれくらい使えて、どれくらいの時間で回復するのか、確認する必要があったのです。

 必要な護りの力をどの程度残すべきかは、精霊達やタマやムクが教えてくれます。

 その限界まで力をふるうことにしたのですが、保存期間の短い果物や野菜で実験するのはもったいないと思ってしまったのです。

 そこで一度野菜を全て収穫して、小麦を蒔いて育てることにしたのです。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る