第93話

「御嬢様、いかがいたしましょうか?」


「無効にできるかしら?」


「はい、お任せください」


 私は精霊に罠を探らせましたが、なんともビックリするほどの数多く罠がしかけられたいました。

 その罠を全て解除して、仕掛けた貴族に送り返してあげました。

 タマとムクを狂気に走らせるための魔道具です。

 魔獣の中でも突出したモノを狂気に走らせられると、愚か者達が誤解するくらいには強力な魔道具です。


 その効果が罠を仕掛けた貴族達の中で解放されました。

 屋敷なのか、アジトなのか、それとも愛妾の家なのかはそれぞれです。

 ですがその効果は絶大でした。

 私自身がその場で見た訳ではありませんが、精霊達の報告では、壮絶な殺し合いが勃発したのです。


 一人が生き残るまで殺し合ったそうです。

 ただ一人生き残った人間も、屋敷内を徘徊して殺人を繰り返し、最後は屋敷外に出て殺人を行おうとしました。

 屋敷内の殺し合いまでは黙認しましたが、屋敷外で罪もない人を殺すのは許せませんので、精霊に殺してもらいました。


 だから、王都の屋敷に住む一族が全滅した貴族が続出しました。

 派閥が壊滅した貴族もあります。

 後の話ですが、相続問題と家名継承問題で宮廷が荒れに荒れました。


「おお、よく戻ってくれたグレイス!

 君に恋い焦がれ、夜も眠れなかった!

 どうかまた婚約者になってくれ!」


「申し訳ありませんが、今の私にその気はございません。

 王太子殿下の身勝手な命令で、何度も刺客に命を狙われ、度々死にかける事になりました。

 私を護ろうとして、多くの家臣が傷つき死にかけました。

 それを詫びることもなく、一方的に想いを押し付けるような方と、共に生きようとは思いません」


「なんだと!?

 不敬だぞ、グレイス!」


 私は、何故このような愚かな方に恋していたのでしょう?

 よく考えれば、生き戻る前の世界で最悪の結果になったのも、この方がスカーレットに籠絡されたのが原因だと、今なら分かります。 

 以前は御二人が相思相愛だったのだと諦めていました。

 私が悪かったのだと一方的に反省していました。


 ですが、中級精霊四柱と絆を結んだ御陰か、孤高のタマと絆を結べた御陰か、冷静に俯瞰して考える事が出来るようになりました。

 どう考えても、マナーズ男爵が王家王国を乗っ取ろうと、スカーレットを使って王太子を誘惑したのです。


 きっかけは確かにマナーズ男爵とスカーレットですが、二人に簡単に騙され、王家王国を乗っ取られ、民に塗炭の苦しみを味合わせたのは王太子の愚かさが原因です。

 それを思うと、つい口調が厳しくなってしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る