第68話

「御嬢様。

 刺客を送ってきたのはヒックス子爵家と判明いたしました。

 これよりコックスを報復に送ります」


「リリアン。

 コックスに無理をさせていませんか?」


「多少の無理はさせています。

 ですが御嬢様の護りを引き受けた以上、やらねばならない事でございます。

 コックスには他の戦闘侍女にはない能力があり、それが評価されていきなり騎士として召し抱えられました。

 地位には責任が伴うのが当然でございます。

 それに、敵の攻撃を受けるだけでは防ぎ切れません。

 手痛い反撃を受けると分かっていれば、敵も刺客を送ることを躊躇います。

 それが敵を殺さずにすむ方法でもあります」


「リリアンのコックスに対する考えは理解しました。

 もっともな事だと思います。

 ですが、仕えてから後悔する事もあります。

 もしコックスが、これ私に以上仕えるのがむりだと言ってきたら、引き留めずに召し放ちにしてやってください。

 敵に対する斬新な考え方も分かりました。

 ですがまだ納得しかねます。

 もう少し待つわけには参りませんか?」


「残念ながら、御嬢様の願いを完全に叶える訳には参りません。

 コックスは仕える時に誓紙血判を書いております。

 しかも、他家に絶対知られてはならない、御嬢様とシーモア公爵家の秘密を知ってしまっています。

 召し放ちにする訳には参りません。

 ですが御嬢様の慈悲の御心を蔑ろにもできません。

 もしそのような事を言ってきたら、本来なら内々で処分するところですが、デビルイン城の警備に役目替えとします」


「ありがとう、リリアン。

 それで、反撃はどうするの?」


「派遣する者を変えて、ヒックス子爵家に報復します。

 これも御嬢様一人の問題ではございません。

 戦闘侍女は言うに及ばず、シーモア公爵家に仕える者全てが、御嬢様を護ろうとして死傷する可能性がございました。

 無辜の民が巻き込まれる可能性もございました。

 シーモア公爵家に刺客を送ってきた敵に対しては、断固たる処置をとれというのが、公爵閣下の決定でございます。

 御嬢様が

『納得しかねます』

 と申されても、報復を止める訳には参りません」


「そうですか、分かりました。

 でしたら、できる限り、自分から志願する者にやらせてくださいね」


「承りました」


 頭では、やらなければいけない事だと分かっているのですが、完全に割り切って考えるのは、なかなか難しいですね。

 シーモア公爵家に生まれた以上、いえ、貴族に生まれた以上、手が血塗られるのは仕方のない事なのですが……

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