第64話

「コックス。

 魔犴を先行させて索敵してください」


「はい」


「御嬢様。

 御嬢様の魔犴も一頭先行させてください。

 後方は二頭の銀狼に警戒させてください」


「分かりました」


 リリアンは相変わらずとても慎重です。

 コックスの魔犴一頭に前方の索敵を任せることなく、私にも魔犴を索敵に向かわせます。

 同じ魔犴を派遣する事で、群れとして共同作戦がとれるように考えているのでしょう。

 今のコックスには二頭の魔犴しかいないので、一頭を側に残して非常時にも対応出来るようにもしていますね。


 後方に関しては私に任せてくれています。

 私には魔犬のムクを筆頭に、魔豺・魔犴・銀狼の四種がいるので、種や群れで分かれて動き易いように考えてくれているのでしょう。


 出産育児のために大半の雌は残しました。

 狩りのために、今回出産しなかった雌と雄の半数を残しました。

 だから王都に連れて行くのは、ムクを筆頭に魔豺のアズと、雄の魔犴四頭と雄の銀狼十頭だけです。


 だからよく考えて配置しなければいけません。

 馬車の側を護ってくれているのはムクとアズに、コックスの魔犴が一頭。

 他の子達は戦闘侍女の更に外周を警戒してくれています。

 デビルイン城をでても、まだシーモア公爵家の領内です。

 領内にいる間は誰も襲撃してこないと思いますが、リリアンは警戒を緩めません。


 私は襲撃よりもデビルイン城に残した子達が気になって仕方がありません。

 絆があるので、全てを見る事も聞く事もできています。

 デビルイン城に残った見習戦闘侍女や侍女にも、その事は説明していますが、それでも彼女らが魔犬達を邪険にしないか心配です。

 今の私は、人間の見習戦闘侍女や侍女よりも、絆を結んだパートナーの方を大切に思ってしまいます。


 彼女達が魔犬達を邪険にしてしまうと、反射的に魔犬達に攻撃を許可してしまいそうで、とても不安です。

 まあ、リリアンを筆頭に、幼い頃から護ってくれていた、いま馬車を警備している者達は別なのですが、そんな信頼できる戦闘侍女も、徐々に結婚して私の側から離れていってしまいます。


 死ぬまでずっと私の側を離れず護ってくれと言うのは、彼女達に結婚も出産も育児もするなと命じるのと同じです。

 余りに無慈悲で身勝手な命令です。

 そんな命令は私も父上も命じるつもりはありません。

 忠誠心と愛情で全てを捧げてくれるリリアンのような存在は、宝玉よりも貴重で、大切にしなければいけないのです。

 生き戻る前の私は、そんな簡単なことも分かっていませんでした。

 だから、リリアンの願いを無碍にはしません。

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