第61話兄ディラン視点

「殿下、お悩みがあるのでしたらお聞かせください。

 私にできることなら、なんでもさせていただきます。

 いえ、殿下のお立場では、簡単に弱みをみせられないこと、分かっております。

 でもそれは立場ある臣下が相手ならの話です。

 私のような何の力も立場もない女になら、何を話しても大丈夫ですのよ」


「……うむ。

 そう、だな。

 スカーレットのような小娘になら、何を話しても大丈夫だな」


「ええ、父も商人から成り上がった男爵でございます。

 何の力もございません」


 やれやれ、またしても簡単に籠絡されてしまった。

 いや、スカーレットが狡猾なのだろう。

 自分の女としての魅力と、父が成り上がりで爵位が低いという弱みを、上手く利用して殿下に近づき徐々に親しくなっている。


「してやられましたね、ディラン殿」


「そうですね、オーウェン殿

 警備の見習騎士が籠絡されていたのでしょう。

 私やオーウェン殿を上手く引き離した隙に、殿下に近づきましたね」


「今から引き離そうとしても、逆にそれを利用して、私やディラン殿の信用を失墜させる事でしょうね」


「ええ、残念な事ですが、殿下は女性に弱い。

 特に自尊心をくすぐる女性に弱い」


「ディラン殿は大胆な事を口にされますね。

 今の話が殿下の耳に入ったら、御不興をを買いますよ」


「分かっています。

 ですが今口にするか、追い込まれてから口にするか、時間の問題です。

 殿下が王権を得た後で奸婦を退ける方が難しいでしょう。

 今ならまだ、陛下や正妃殿下の御力を借りる事ができます」


「そうですね。

 いっそ陛下に御願いして、娼婦でもあてがいますか?」


「オーウェン殿の方がよほど大胆な事を口にされる」


 だが、確かにオーウェン殿が口にされた通りだ。

 殿下が女性に甘く、事あるごとに小娘にまで付け込まれるのは、溜まった劣情のせいかもしれない。


 だがだからといって、娼婦に入れあげてしまったら、国を揺るがす大問題になる

 歴代の王の中には、夢中になった娼婦を正妃にしようとして、陰惨な謀殺合戦を引き起こした方がいらっしゃるのだ。

 殿下が同じことをしないとは言い切れない。


 本当なら、学生の間であろうと、グレイスと正式に結婚して頂き、劣情が溜まらないようにすべきだった。

 だからこそ、一般的には正妃が少し年上がいいと言われている。

 だが我がシーモア公爵家も権力を手放す気にはなれなかった。

 年下のグレイスを婚約者に決めた上に、将来の王位継承問題が起きないように、殿下とグレイスの間に王孫が生まれるまで、側妃を置くのを反対した。


 その結果が殿下の女好きに繋がったのかもしれない。

 いや、殿下の持つ元々の資質だろう。

 陛下も先代陛下も年下の婚約者がいらっしゃったが、学生時代に劣情を抑えきれずに問題を起こしたと聞いている。


 公爵家の権力を維持するなら、早々に殿下とグレイスを結婚させればいい。

 だが、グレイスが死にかけた時に分かった。

 権力よりも家族が大切だ!

 やっと健康を取り戻したグレイスを殿下の欲望の捌け口にする気は毛頭ない!


「ディラン殿。

 これは、放置できんぞ」

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