第60話

 私の魔犴とコックスの魔犴。

 一時的に共同して狩りをしています。

 コックスの魔犴は、群れが大きく強くなって安心しているようです。

 狩りも簡単に成功しています。


 商品として売るのなら、人が止めを刺して、キッチリと血抜きして、丁寧に解体する方が全て素材を無駄にしなくてすみますし、高品質な素材になります。

 ですが、それでは狩りにかかる時間が長くなり、成功率も低下します。

 何より魔犴にストレスがかかります。

 群れだけで自由に狩りをする事が、彼らのストレスを解消するのです。


 私やコックスが絆を結んだ魔獣とはいえ、私やコックス以外の人間と行動を共にするというのは、大きな負担や不安を感じる事なのです。

 彼らとの絆が太くなり、彼らの気持ちがより細やかに感じられるようになって、私のために無理をして人間と行動を共にしてくれているのだと、理解できました。

 恥ずかしい事です。


 ですから、少々価値の高い魔獣であろうと、彼らだけの力で比較的頻繁に狩れる魔獣は、彼らの自由にさせてあげる事にしました。

 最初から最後まで彼らに狩らせるのは最初に語りましたが、狩った後も、群れの序列に従って自由に食べてもらいました。

 

 それによって、コックスの魔犴が生まれ変わったように生き生きとしだしました。

 同時にコックスの陰りが消えました。

 初めて会った時のような、屈託のない笑顔を見せてくれるようになりました。

 そのことでリリアンも、魔獣使いについて新たな発見をしたようです。

 私とコックスの待遇が著しく変わりました。

 いえ、私とコックスのパートナーである魔獣の待遇が変わったのです。


 魔獣達は群れごとに完全に独立した部屋が与えられるようになりました。

 人間が一切入る事の出来ない部屋が与えられました。

 絆を結んでいない人間と行動させる時には、絶対に魔獣を一頭にはせず、二頭以上の魔獣で、更に同行する人間以上の数で行動させました。


「リリアン。

 どうしてこのような組み合わせにしたのですか?」


「魔犴と銀狼に負担をかけると、それが主である人間の肉体だけでなく、精神にまで悪影響を与える事が分かりました。

 臣下として、御嬢様に御負担をかける訳には参りません。

 魔獣と絆を結んでいただいたのは、御嬢様に健康になって頂くためです。

 臣下が楽をする為ではありません。

 警備が楽になるとか、利益が得られるからといって、御嬢様のパートナーに負担をかける訳には参りません」


 常に私の事を一番に考えてくれる、リリアンらしい判断です。

 ですが少々心が痛みます。

 私と魔獣の関係を、私に負担をかけることなく知るために、コックスとパートナーが実験台にされています。

 コックスとパートナーには、本当に申し訳ない事ですが、リリアンに止めろと言っても止めてくれないですね。

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