第56話コックス視点
まさか、こんな事になるとは思ってもいませんでした。
確かにシーモア公爵家に忠誠を誓いました。
シーモア公爵家のためなら、命を捨てるとも誓いました。
ですが、基本御嬢様を護るのが役目だと聞いていました。
それが、暗殺をやらされるとは、想像もしていませんでした。
御嬢様の護衛として、やらなければいけないのは理解しています。
何度もしつこく刺客を送って来るような敵は、痛い目に会わせなければいけない。
やられた事は必ずやりかえさないと、その世界で舐められて生きていけなくなる。
冒険者として嫌というほど経験してきました。
だからシーモア公爵家も、貴族として生きていくのなら、絶対に報復しなければいけない。
頭では十分理解しています。
ですが何故私なのでしょう?
他にも家臣は沢山します。
気配から、その道の名人達人だと察する事のできる人が数多くいらっしゃいます。
リリアン殿とペイズリー殿はその最たる方です。
何故彼女達ではなく、私なのでしょうか?
いえ、本当は分かっています。
私が魔獣使いだからです。
私なら、自分は危険を冒さずに敵を殺す事ができます。
私自身は遠くに陣取り、魔犴を使って暗殺ができます。
実行犯の魔犴が重傷を負っても、私が自分に治癒魔法をかければ、遠隔地にいる魔犴の傷が治るという、とんでもなく都合のいい能力があるからです。
ですが、恐らく、これ一回きりの能力になるでしょう。
魔獣使いが魔獣をこんな身勝手な使い方をしたら、魔獣が愛想を尽かして絆が切れてしまう事でしょう。
過去の事例や口伝から、主人が欲得で魔獣と身勝手に使うと、魔獣使いとして絶対に必要な魔獣との信頼感、絆が切れると分かっているのです。
御嬢様の御気性では、御自身でこのような非常な策を考えるとは思えません。
恐らくリリアン殿が考えられたのでしょう。
ですが実際にそれを実行するには、出産した子達以外の魔獣が必要になります。
とんでもなく都合よくこの子達が見つかり、いとも簡単に絆を結べました。
この子達を集めて私と絆を結ばせたのはムクです。
なんか、ムクにまで使われている気がします。
御嬢様の魔獣達のリーダーとして、主人を襲った人間を絶対に許さない。
でも、御嬢様の手は汚させない。
ムクがとてつもなく賢くなっています。
私と絆を結んでいた時とは雲泥の差です。
それが御嬢様と私の差なのでしょうか?
「コックス殿はここで待機していてください。
魔犬達には私がギリギリまで付き添います。
ですが危険だと思ったら、私は直ぐに囮になって逃げます。
コックス殿はそのまま襲撃を指揮してください」
ええ、私一人で暗殺に来た訳ではありません。
リリアン殿は、ちゃんと案内役をつけてくれました。
逃げ出さないように、裏切らないように、監視役だともいえますが、それでも素人の私がここまで来られたのは、顔も名前も分からないこの人の御陰です。
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