第22話

「まあ!

 なんて可愛らしいのでしょう!」


 公爵家の娘に相応しくない声を出してしまいました。

 でも、仕方がないと思うのです。

 だって、私が聞いていた大地の精霊ノームとは全然違う姿なのです。


 私が聞いていたのは、身長十二センチほどの、長い髭を生やした老人です。

 ですが今目の前にいるのは、可愛らしい子供です。

 確かに身長は十二センチ程ですし、事前に聞いていた派手な色の服と三角帽子を身につけています。


「実は御嬢様。

 私のノームは特別なのです。

 他の者のノームは老人なのですが、私の子だけ子供なのです」


「まぁ!

 黙っていたなんて酷いですわ。

 驚いてしまったではありませんか」


「申し訳ありません、御嬢様。

 旦那様と奥方様に黙っているように指示されていたモノですから」


「私からも謝らせていただきます。

 私も事前に聞かされていたのですが、御嬢様に喜んでいただきたくて、黙っておりました。

 申し訳ありません」


「いいえ、構いません。

 父上と母上の御心はよく分かっています。

 リリアンの気持ちもね」


 父上と母上は、私が精霊使いや魔獣使いになれなかった時の事を考えて、出来るだけ可愛らしい、私が好きになりそうな、慰められる精霊や魔獣を使う者を探し出して下さったのでしょう。

 学ぶのも、私が余計な事を言わなければ、順番があったのかもしれません。


「オーロラ。

 この子を触る事はできるのかしら?」


「御嬢様が望まれるのでしたら、御心のままに」


「コックス。

 私が精霊を触って、ムクは哀しがったりしないかしら?」


「申し訳ございません。

 私には分かりかねます。

 ですが、御願いできるのであれば、ムクを膝に抱いた状態で、ノームを撫でて頂けますか?

 御嬢様は、思いがけず一度でムクと絆を結ばれましたが、精霊を撫でる事で、その絆が切れたら一大事でございます」


「御嬢様。

 コックスの申す通りでございます。

 私が見ても、ムクと絆を結んだことで、眼に見えて健やかになられたのです。

 その絆を断ち切る危険を冒す事は止めてください。

 御願い致します」


「リリアン様のおっしゃる通りでございます。

 私とノームは御嬢様を警護に専念致します。

 コックス殿は新たな魔犬を手に入れて、御嬢様との絆を結べるようにしていただき、御嬢様の健康を取り戻す事に専念して頂きたいと思います」


 リリアンとオーロラが怖いくらい真剣な顔で諫言してくれます。

 確かに二人の言う通りです。

 今は健康を取り戻すのが一番です。

 藁にも縋る思いで試した、魔獣使いと精霊使いの技です。

 心の中では無理だと諦めていました。


 思いがけず成功した以上、可愛らしいモノを触りたいというような児戯で、台無しにしていい事ではありません。

 今は複数の魔犬と絆を結ぶ事を優先しましょう。

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