逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

第1章

第1話

 今思えば悔いの多い人生でした。

 全て私の愚かさが原因です。

 王太子殿下に見限られたのも、父上や母上に見捨てられたのも当然です。

 正妃になるには力不足だったのです。

 勉強や練習について行けず、余裕がなかったのでしょう。


 だから些細な事で、直ぐに感情的になってしまいました。

 王太子殿下に近づく、スカーレット嬢に怒りをぶつけてしまいました。

 短慮でした。

 幼かったと言い訳などできません。

 貴族には最低限必要な教養と理性があるのです。


 あの頃の私には、それが不足していました。

 だから

「王太子殿下は私を愛してくださっているのです。

 身を引いて下さい」

 そう言って詰め寄るスカーレット嬢を突いてしまいました。


 余りに激しく詰め寄るので、思わず突いてしまいました。

 軽く突いたつもりでしたが、力が入ってしまったのでしょう。

 スカーレット嬢は、ベランダから落ちそうになってしまいました。

 私はスカーレット嬢を殺そうとした罪で、修道院送りとなりました。

 仕方がない事です。


 悔いがあるのは、その後の出来事です。

 王太子殿下がスカーレット嬢と御結婚なさって、戴冠された事ではありません。

 可愛らしい王子殿下を授かった事でもありません。

 それはとても目出度い事でした。

 悔やまれるのは、幼い王子殿下を残して王太子殿下が夭折なさった事です。


 そしてシーモア公爵家が取り潰しになってしまい、父上と母上が親戚預かりとなった事です。

 王太子殿下の御兄弟は既に病死されていらっしゃいました。

 王家を継げるのは、王太子殿下の忘れ形見の王子殿下だけでした。

 王国の権力は、外戚となったマナーズ侯爵が掌握してしまっていました。


 マナーズ男爵家は、スカーレット嬢が正妃となった事で、伯爵に陞爵しました。

 王太子殿下が御亡くなりになって、侯爵に陞爵しました。

 私がスカーレット嬢を突き殺そうとしたのを根に持っていたのでしょう。

 殺す気など全くなかったのですが……

 全ての権力を握り、シーモア公爵家に報復したのでしょう。

 私が修道院送りになっただけでは許せなかったのでしょう。

 全て私が嫉妬に狂ったせいです。


 本当に悔いが残ります。

 こんな事になるのなら、最初から王太子殿下との婚約をお受けしなければよかったのです。

 私のような者が正妃に成るのは無理だったのです。

 私以外の名門貴族の令嬢が正妃候補だったら、王家もシーモア公爵家もこんな事になっていなかったかもしれません。


 もう私は死ぬでしょう。

 自分の事は自分が一番分かっています。

 天国には行けないでしょう。

 地獄に落ちるのは分かっています。

 ですが、もし、天の神様が慈悲をくださるのなら、やり直させて欲しいのです。


 今度は絶対失敗しません。

 マナーズ侯爵が権力を握ってから、色々な税が増やされ、厳しい徴収が行われるようになり、民が貧困に苦しんでいるそうです。

 全ては、私の短慮から始まった事です。

 今度こそ、貴族として民のために働きたいのです!

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