8月17日 土曜日
抜けるような、青い空。
そして照りつける強烈な日差し。
俺の運転するクルマは、山間の広い道を軽快に走っていた。助手席にはアリサが乗っている。チェックのワンピースに、つばの広い帽子がとても似合っている。
「暑い?」
「うん、ちょっと熱いかな」
俺はカーエアコンの温度を少し下げた。
アリサは時おりスマホを触りながら、外の風景を眺めている。
ラティの言った通り、演劇を観に行ってから俺とアリサの距離は縮まっていった。バイト先で話をする時間も増えた。そして今日一緒に海までドライブしようという話になった。
カーナビによると、もう少しして、山を越えると、海岸線に出る。そこには古い灯台があって、俺たちはそれを見に行こうとしていた。
「へえ、特待生なんだ」
アリサは芸能事務所の系列のスクールに通っているらしい。特待生で。
「そう、だから授業料は無料」
「すごいね」
「あの演劇も、系列の劇団なんだよね」
「そうだったのか」
「特待生ってどうやったらなれるの?」
「うーん、いろいろだけど、あたしの場合は、スカウトだね」
「ああ、確かに。綺麗だもんね」
「最初はスカウトされたし、無料だしっていう気持ちで、何となく通ってたんだけど、最近はもっとお芝居を頑張りたいって、思うようになったんだ」
道が山を抜けて、海岸線が見えた。
海に浮かぶ小島と、入道雲。
どこまでも続く海岸線が見える。
海岸線を走っている途中で見つけた道の駅で、昼食をとることにした。
建物の中にあるレストランに入った。家族連れやカップルのほかに外国人観光客もいる。
海側に大きくくり抜かれた4枚の窓から、エメラルドブルーの海が見える。
俺たちは座敷の席に座り、店のおすすめという海鮮丼を注文した。
「で、オーディションのほうは、自信あるの?」
「どうかなあ、台本を読んでみたりしたけど」
アリサは自信なさげに視線を落とした。
こんど、劇団で、オーディションがあるらしい。演目は三島由紀夫の『潮騒』という作品だ。
「知ってる? 『潮騒』って話」
「アリサちゃんに言われてから、読んでみたよ」
「まじで? どうだった? 感想聞かせて」
「うーん」
潮騒。とその作者。三島由紀夫。
ウィキぺディアによると彼のテーマは「日本の美」らしい。潮騒の話はシンプルだ。男と女が出会い、恋をする。
読みにくい小説ではなかった。だけど俺は三島由紀夫に興味はない。
「さわやかな話だと思ったな」
「それだけ?」
「あと、文章がうまいなって思った」
「本当に読んだ?」
読んだんだけどな……。感想ってむつかしい。
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