第19話 新歓コンパ①

 正直今日の飲み会は全然乗り気では無かった。新歓という事もあり、取り敢えず参加はしてみたものの、今の私にはあまりこのサークルに参加するメリットが薄れてしまっている。恐らく今私の隣にいる真子もそんな感じだろう。彼女もスマホ片手に何となく気怠そうだ。


「ねえ真子、今日は2次会まで行くの?」


 私はそんな真子にその日の予定を確認する。真子はスマホから目線を上げ、少し悩むような表情を作る。


「うーん、多分行かない。奈々もそのつもりでしょ?」


「そうするつもりだけど、新入生だけになっちゃうとそれはそれで可哀想だしね」


「そうね、やっぱそこは状況次第か。取り敢えず奈々とは一連托生という事で」


 こう言う時の真子は危ない。私に彼氏がいないで真子にはいる時分には平気で裏切るのだ。


「そんな事言って裏切らないでよ。私実家なんだから、いざとなったら真子の家に転がり込むからね」


「はは、別に家でも良いけど、奈々的に家でいいの?他にもあてがあるでしょう?」


 真子はそんな事言いながら、ニヤニヤしだす。真子の言わんとする事はわかる。私としても出来ればそうしたいのだが、流石にこっちはお酒が入っていて、圭介はシラフという状況は少し申し訳無い気がするのだ。


「それは本当に最終手段。圭介は今日バイトだし、

 流石に私が酔っ払ってたら悪いしね」


「ありゃ、奈々は変な所で律儀だねー。私なんかそんな事気にした事ないよー。健もあんまその辺気にしないしねー」


 私も圭介が本当の彼氏なら遠慮はしない。ただ今は偽の彼女だ。無遠慮過ぎるのも嫌われないかと心配になるのだ。


「真子が健君に遠慮なさすぎなのよ。でも圭介も面倒臭そうな顔をしつつも、仕様が無いって言ってくれそうだけどね」


「アハハッ、確かに。清水君はそういうタイプ。ちょっとツンデレ的なね」


 私の素直な感想に真子は笑い声を上げて同意する。私もそんな真子に釣られてフフフと笑みを見せたところに、サークルの他の女子からも声が掛かる。


「何なに〜、彼氏持ちコンビが仲良く惚気話〜?今日はガッツリ話聞くから覚悟してなさいよ〜」


「ああ、私も私も、奈々の鉄壁のガードを崩した彼氏君話、私もききたーい」


「フフフッ、ならこの私が奈々のあまーい惚気話をたーんとレクチャーしてあげよう!」


 すっかり乗り気になった真子は薄めの胸を張り、女子の輪の中で話し始める。


「ちょっ、ちょっと待って、真子、膨らませ過ぎ、膨らませ過ぎだから〜っ」


 焦った私は慌てて真子の暴走を止めにかかる。


 この時まではまだただの飲み会だと私は思っていた。しかしそんな私たちの姦しい姿を遠目で何人かの男子が嫌らしい笑みを浮かべて眺めているのを、その時の私は全く気が付かなかった。


 ◇


 新歓が始まって暫くの間、私は1年生の質問攻めにあっていた。


「宮城先輩って彼氏いるんですか?」


「彼氏さんってどんな方なんですか?」


「そんなに綺麗ってやっぱ化粧品にも気を使っているんですか?」


「高校時代とかってやっぱモテてましたか?」


 矢継ぎ早に飛んでくる質問に私はそれでも笑顔で答える。私の答えに1年生達は一喜一憂し、楽しそうに過ごしている。私は少しだけお酒を飲んでいたが、それよりも質問に応えるのに忙しく、お酒はおろか食事にすら手を付けられず、これって本当に割に合わないわよね、などと考えていた。そしてひと段落ついた所で少し席を立ちその場から離れる。そして他のサークルの女子達が手招きをするので、難を逃れようとそちらに足を運ぶ。


「奈々、お疲れ〜、相変わらず凄い人気ねー。取り敢えず暫くはここで休んで居たらいいよ。はい、奈々の飲み物」


 いつの間にか元の席から持ってこられたお酒を私に渡し、サークルの女子達がまったりと話しかけてくる。


「あっありがとう。はぁ、疲れた〜、お腹も空いた。向こうにいると中々食べ物にもありつけないからちょっとここでエネルギー補給させてもらうわ」


「うんうん、そうしなー。はい、じゃあ改めてかんぱーい!」


「かんぱーいっ」


 そうして自分の飲み物に口をつけ、取り皿に料理をのせて頬張る。うん、お腹が空いている時は何を食べても美味しい。私は飲み物も飲みながら、料理に手を付けてると、隣の女子佐々木真里奈ささきまりなが話しかけてくる。


「そう言えば私、奈々とじっくり話した事ってそんなないかも。奈々はいつも真子と一緒にいるもんね」


 そう言えばそうかも。真里奈は少しギャルの入った明るいキャラだ。お喋り好きで男子受けも良いのだが、真子もお喋り好きなのである意味キャラが被ってしまう。因みに真子はと言うと今は1年生の方にいて何やら爆笑を誘っている。


「真子は何となく話が合うんだよね〜、気兼ね無いというか、私と性格は全然違うんだけど逆にそこが楽しいって感じでね」


「確かに性格は全然違うわね。でも私も奈々とはもっと喋りたかったんだよね〜」


「あっ、私も、私も」


「うちも〜」


 真里奈の周囲にいた女子達もそれに乗って話しかけてくる。私も同性に話したいと言われれば素直に嬉しい。これが異性だと変な勘ぐりも働くが、同性相手なら気兼ねはいらないのだ。


「じゃあ、今日はみんなで語り明かそうー!」


「あっ奈々もノリ良いねーっ、じゃあ取り敢えずかんぱーいっ」


 そこで自分のグラスを掲げながら真里奈は掛け声を上げる。私も他の女子達も楽しげにグラスを鳴らす。


「「「かんぱーいっ」」」


 そうして局地的な女子会が始まり、みんなでワイワイと話し出す。その間お酒も進み、でも会話も楽しく私はついついいつもよりも早いペースでお酒を飲み進めてしまう。途中、真子も合流し、1年生の女子達も参加して更にその場は盛り上がる。私も笑い声を上げながら、真里奈を見ると真里奈は私とは違い楽しそうにはしているが、余り酔ってるようには見えなかった。


「あ〜れ〜、真里奈ーっ全然酔ってないんじゃないの?」


「そういう奈々は、結構酔いが回ってる?私は奈々より飲んでるけど、お酒強いから、あんま顔変わらないんだよね〜」


「あーっ、そうそう真里奈ってばお酒底無しなのよ〜、私達もいつも真里奈に潰されちゃうんだから〜」


 すると真里奈の奥の子がやっぱり赤ら顔で真里奈の腕に抱きついている。


「ほらほら美里、あんたはお酒弱いんだから、飲みすぎちゃ駄目でしょ〜、また痛い目に合うよー」


 そう言って真里奈は彼女の腕にしがみ付く友人に少し呆れの混じった声音で注意する。私もこんな時は頼りになる友人がいると思い出し、浮ついた気分で周囲を見ると、頼みの友人もやはりお酒が回っているのか、普段以上に陽気な声で喋っている。


『あっ、ちょっと飲みすぎたかも……』


 量的には決して飲めない量では無い。ただ周囲の雰囲気もあり普段よりもペースが早かった。私は少し酔いを覚まそうと席を立ちトイレに向かおうとする。


「あれ奈々どこ行くの?」


「うん、ちょっとトイレ」


「あーはいはい、いってらーっ」


 近くにいた女子に声をかけられ、返事をした後体が少しふらふらとする。私は取り敢えず壁に手をつきつつ、本格的に自分が酔っているのだと自覚する。正直このまま帰っても無事に家にたどり着ける自信がない。今日は真子の家にお世話になるしか無いなぁなどと考える。そしてトイレを出た後、真子の側に行こうかと思った所で、真里奈から再び声が掛かる。


「ちょっと奈々、こっちに戻ってきなさいよ〜、みんな待ってるわよ〜」


 確かに見ると真里奈以外にも1年生を含めた女子達がおり、私に向けて手を振っている。こうなると逃げられない。ノリを悪くして場の雰囲気を悪くしたいとも思わないので、仕方がないので、元の席に戻ることにする。そして座るときに、お酒のペースは落とそうと考えていたのだが、座った所で真里奈の第一声でその目論見が脆くも崩れ去る。


「はーい、じゃあ奈々も戻ってきたし、ここで仕切り直しの乾杯しましょう、はい、かんぱーいっ」


「「「かんぱーい」」」


 私も少し乗り遅れたのだが、慌ててお酒に口をつける。


「あーっ、奈々飲むの遅かった。なのでもう一回。はい、みんなタイミング合わせてーっ、かんぱーい」


「「「かんぱーい!」」」


 今度はタイミングを合わせて少し多目にお酒を口に含む。折角少しだけ気分転換をしたのに、再び酔いが回ってくる。するとここにこれまで別の場所で飲んでいた男子達がなだれ込んでくる。


「ちょっと女子だけで楽しまないで、みんなで楽しく飲もーぜーっ」


 なだれ込んできた男子達は男女交互になるように、女子達の間に入ってきて、場を盛り上げるように喚き立てる。私がこの状況に戸惑っていると隣の男子がグラスを持って話しかけてくる。


「イエーイ、奈々ちゃん、飲んでる〜?みんなで楽しく飲もうぜーっ、なあ真里奈〜」


「フフフッ、奈々ならまだ飲めるでしょ?はいはい、グラス持って〜」


 真里奈もその男子に合わせるように、私に絡んでくる。私は正直これ以上飲むとヤバいと感じ、何とか逃れようとするが、二人の息の合ったコンビネーションに、次第に酩酊して行くのであった。

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