第13話 画像流出

 その日俺は夕方のバイトまでの時間、睡眠を貪っていた。昨日はキツかった。いや未だに酒が残っている気がする。ただ次の日シャワーを浴びて、スポーツ飲料をガブ飲みすれば酔いは覚めるので、後はその行動を取れば良いだけなのだが、中々その行動に移せない。時間は既に昼の12時を回っている。うん、もうそろそろ動かないとバイトに行く気すら失せてしまう。


 俺は一念発起して何か重い頭を起こす。幸い吐き気等は無い。潰れた後、三枝さんに膝枕をして貰ったのが、功を奏したのだろう。僅かでも休息出来たのが良かったのだ。その点においては、彼女に感謝である。しかし元凶の一端は彼女にある為、感謝の気持ちも半減ではあるが。


 すると俺が起きるのを見計らったかの様に、スマホが震える。俺はSNSを立ち上げ、タイムラインを覗き込むと直ぐに立ち上げたSNSを閉じる。うん、俺は何も見なかった。うん、メッセージなど来てなかった。ましてや画像なんて……。


 するとまたしてもブブブッとスマホが震える。うん、今日は迷惑メールが多いなぁ。うん、ちゃんと迷惑メール対策をしないとなぁ、などと再び無視を決め込む。おっ、そうだ俺はシャワーを浴びに行こうと思ってたんだ。


 すると今度は通話が入る。そして液晶に表示された名前を見て、真剣にその電話を取るべきかを悩む。①俺は悪くない②俺は悪くない③やはり俺は悪くない。自己催眠で心に三重のプロテクトをかけた後、俺は決死の覚悟で通話を開始する。


「あーもしも『ちょっと圭介あの画像、どう言う事っ』し……」


 完全に俺ののんびりまったり作戦が早々に砕かれ、奈々のドスの効いた声が俺の三重のプロテクトを打ち砕く。


「すっすいませんでしたーっ」


 因み俺はその場で相手もいないのに、土下座だ。しかし相手は俺の渾身の土下座が見えている訳では無い。なのでドスの効いた声は止まらない。


「ああぁんっ、謝るって事は後ろ暗い事があるんかいっ」


「い、いえっ、やましい事は何一つございませんっ」


 えっ、何これ、俺東京湾に沈められる!?俺は内心で戦慄を感じつつ、平身低頭謝罪をする。あれ、俺何で奈々に此処まで詰められなければならないの?ただそんな疑問を挟む余地は一切ない。すると奈々の方から大きな溜息と共に柔らかい声が紡がれる。


「はぁ、もう良いわ。どうせ圭介の事だから、私の事でサークルのメンバーに飲まされた挙句、潰れた所を介抱されただけでしょ」


 奈々はまるで見てたかの様にそう言ってくる。俺は逆にその想像力に恐怖を感じつつ、素直にそれを肯定する。


「おおう、確かにその通りだけど……、奈々お前何処かで見てた?」


「そんな訳ないでしょ、去年の忘年会の時と同じだったってだけ。あの時介抱したのは私でしょっ」


 ああ、そう言えばそうだった。確かにあの時も酷い有様だった。しかもあの時は脱がさっガフンッガフンッいや一芸を披露して散々な目にあった。うーん、黒歴史。確かに奈々にはお世話になった。


「あっはい、仰る通りです。その節は大変お世話になりました。ん?じゃあ何で俺怒られたんだ?理由が分かってるなら怒る必要無いだろう?」


「んー、だって圭介、ライン無視するし、何か周りにこんな浮気男別れた方が良いとか言われるし、ちょっと焼き餅っぽいのって彼女らしい?でしょう」


 確かに動転してラインを無視したのは、俺が悪い。うん反省しよう。周り云々は知らんが彼氏役を授かった身、厳密には押しつけられた身だが、それも反省しよう。ん?何だその彼女っぽいのって?


「なあ奈々さんや、俺は彼女らしい事をしたい奈々さんの為に、激ヅメされたんですかい?」


「うん、そう。あーでも彼氏が浮気したらこんな感じで怒れば良いのかって、勉強になった」


「おいこらふざけんなっ、何が勉強になっただっ、こちとらビビって土下座までしてんだぞっ」


 怒れる口調の割に言っていることは情けない。するとすかさずそこに突っ込みが入る。


「クッ、土下座って、圭介本当にビビったんだ。クククッ、プッ、アハハッ、駄目、圭介ビビリすぎー」


 ついに笑いの防波堤が決壊した奈々は大笑いをかます。俺は慌てて方向転換。此処ままでは暫くネタにされる。


「べ、別にビビってなんかいないんだからねっ」


「圭介、そのツンデレはキモい。弁明が必死すぎてキモい。それともう暫くはネタだから。誤魔化そうって言ったって、誤魔化されません」


 くっ、俺の渾身のギャグすら全否定された。俺はそれでも何とかこの窮地を脱出しようと懸命に頭を働かせる。すると俺の返しより先に奈々の方から救済のロープが垂らされる。


「あーでも、圭介が1つ言う事を聞いてくれたら、今回のこと水に流しても良いわよ」


「1つ言う事?」


 ああ、アカン、これあかん奴だ。垂らされたのはロープじゃなく、クモの糸だった。俺は思わずおうむ返しで聞き返した事を後悔する。


「ええ、圭介、明日私とデートで決定ね」


「ええぇぇ……」


 俺は思わず声を上げる。別に奈々とデート云々が嫌なわけでは無い。むしろそれはわりかしどっちでもう良い。それよりも俺の貴重な完全オフ日が無くなるのが痛いのだ。ああさらば、俺ののんびりゴロゴロ日曜日、こうして俺の優雅な日曜の計画が崩れ去るのだった。

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