第2幕
「こんにちは!」
「お疲れ様です!」
「大佐、お疲れ様です!」
廊下を道行く部下たちからの挨拶に一つ一つ返しながら歩く。しばらく行ったところで突き当たりに差し掛かり、そこを左に曲がる。さらに奥に行くと、人気がなくなってきた。それでももっと奥に進むと、今までのドアとはまるで違う、一際大きく、重厚そうな扉が出てきた。その扉の脇にあるカード挿入口にIDカードを入れる。
「さて、今日のセキリュティは何かな〜」
ピピッ、と言う電子音の後に挿入口の上にある液晶画面に数字パネルが浮かび上がった。なるほど、今日はパスワードか。数字を打ち込み終えると、またピピッ、と言う電子音の後に扉がプシューッと言う音を立てて開いた。扉の先は暗く、液晶パネルが放つ青白い光が照らすだけだった。しかし、目を凝らすと、そこには人影が二つあることがわかる。
「失礼します。軍事機関、陸軍能力部隊所属、神代由依奈参りました」
人影に向かい敬礼をする。
「おお!来たか、神代大佐。此度の任務、ご苦労であったな」
「完璧な任務遂行見事だったぞ。しかし、採取まで君がやる必要はあったのかね?」
右に岩谷総督、左に市ヶ谷参謀長がいた。
「まぁまぁ、参謀長。そう言わないでくださいよ。採取班に任せるよりは、私の方が確実でしょう?」
「ふっ、それもそうか」
そう言って参謀長は微笑した。
「ところで大佐、例のものはあったのかね?」
総督が話を変える。
「そのことですが、私が突入する前に新卒の偵察部隊の子がいまして、救助を優先してしまいました。ですので資料の回収は出来ませんでした」
「なんと、それはあまり芳しくはないな。気づかれてはいないのか?」
総督と参謀長が少し怖い目で見てくる。
「問題ありません。情報は漏らしてはいませんし、その者の名前も把握しております」
「それなら良かった。しかし、例の資料が手に入らなかったのは痛いな」
そう言うと総督は手に持っていた葉巻をぐしゃぐしゃと灰皿に押し付ける。
「資料についてはまた後日改めて捜索に向かいます。では、報告は以上ですので、私はこれで失礼します」
そう言って私は部屋を後にする。
「まさか、成人もしない子供たちにこの世界の命運を託すことになろうとはな」
「全くだ。我々のような年寄りでは上から命令することしかできないとは、実にもどかしい。反吐がでる」
「あの日以来、世界はこんなにも変わってしまった。いつか、また、世界中の人々が共に笑い合える日が来るのだろうか」
「その為に、今、戦っているのだろう。我々が立ち止まっていては、若い衆に示しがつかんではないか。お前はいつものように踏ん反り返っていれば良いのだよ」
大佐がいなくなった部屋では、この世界の行く末を見つめる者たちの声が響いていた。
鋼鉄が内蔵された靴の音が廊下に響く。誰も通らない廊下を歩くその者の目には、確かな闘志の炎が宿っていた。
「害虫は私が全部駆除してやる」
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