幕間1

  大佐就任から1週間が経ち作戦の事後処理も終わりつつある中、私は総督の執務室に呼び出されていた。


「大佐、先日の作戦はご苦労だった。迅速な対応に死者を出さない統率力、実に見事だった」


 称賛の言葉をもらい気分が良くなる。


「過分な評価恐れ入ります」


 深く頭を下げる。


「ただ、A L7を失ったのはいただけないな。我が軍にはあれを含めてまだ八機しかないんだ。もっと慎重に使ってもらいたい」


 痛いとことついてくるな。


「申し訳ありません。まさか害虫の尾が自立して動くとは……」

「まぁ良い。A L7はまた製造すれば済む話だ。それより今回はその話をするために呼んだのではない」


 おお、心が広いな。


「と、申されますと?」

「大佐に着任した君には補佐官がつくことになる。今回はその承諾をしてもらうために来てもらった」

「補佐官……ですか?」


 聞き返すと総督はうなずいた。


「大佐の任務は多岐に渡るからな、事務的な作業を補佐官にやってもらうのが通例になっている。要するにただの分担だ。だが、効率がいい」


 総督のいうことはもっともだ。大佐の業務は作戦時の部隊の指揮だけでなく、隊員たちの訓練、指導も含まれている。基本的に日中に休みはなく、休暇も少ない。そこに事務作業も加わったら多忙すぎるだろう


「それは嬉しいですね。願ってもない制度です」

「そうだろう。それでだ、人選はこっちでしてしまったが、問題はないか?」


 選択権無いのね。


「大丈夫です。それでどのような方が補佐官に?」

「そうだな。本人と直接話したほうが早いだろう。呼んであるんだ。入ってくれ」


「失礼します」


 総督の掛け声で奥のカーテンから一人の男性が入ってきた。


 歳は四十代かな。細身で白髪混じり、身長も高い。うん、仕事はできそうな感じはする。でも、なんか見たことあるな。


「お初にお目にかかります、神代大佐。参謀本部事務次官の重松豊しげまつゆたかと申します。以前は霧島元大佐の補佐官も務めていました。どうぞよろしくお願いいたします」


『重松豊』そうだ。私と同じ愛知県襲撃事件の生存者だ。


「会って話すのは初めてですね。神代由依奈です。霧島加奈枝さんの補佐官であればこちらとしても心強い。よろしくお願いします」


 手を差し出し握手する。


「双方合意できたようだな。では神代大佐、君に本来最初に受けてもらうはずだった任務を受けてもらうが大丈夫か?」


「任務ですか。大丈夫です」


 本当の初任務か、どんなだろう。


「君にやってもらうのは東京都元本庁舎の制圧と奪還だ」

「本庁舎ですか?廃棄されたあの場所に一体何の用が?」


 三十四年前、世界が害虫で溢れかえった時に放棄された警察組織中枢機関の警察庁の本庁舎。元都市部中心に位置し、首都の治安を守るための重要拠点でもあったが、放棄された今では違う場所に同様のものが建てられている。


「日にちは明後日だ。詳細は追って伝えるが、すでに偵察部隊が周辺の探索に取り掛かっている」


 詳細は後か。まあいいかな。


「了解いたしました。迅速に遂行してまいります」


 敬礼をして任務を受諾する。総督と握手をして部屋を出る。明後日かぁ、とりあえず準備は済ませておこうかな。誰もいない廊下に鋼鉄の内蔵された靴の音だけが響く



「やはり能力者というのは少し気味が悪いですね。あの年齢であそこまで落ち着いているとは」

「だが、そのおかげで我々は戦えている。多少の操作は止むを得ない。しかし、君がそのようなことを言うとはいささか驚いたな」

 少女の居なくなった部屋で二人の男が話していた。

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