第8話 ネコを飼う事になった事情

人生、何があるかわからない。


私は持病があって、定期的に通院している。

久しぶりに電車に乗り、人混みや病院の待ち時間で、ひどく疲れた。

片頭痛の症状で目の前がチカチカ回るし、なんだか吐き気もしている。

こんな時は、静かなところで一旦休みたい。

駅の近くにあるあのビルに行こう。

1、2階に飲食店や本屋などの商業施設。3階に眼科、足裏マッサージ、学習塾。4階は貸しスタジオやホールがあり、各階にトイレがある。ホールでの催物が無い時は、ホール前のベンチがちょうど良い休憩所になる。

節電のためか、薄暗く、周りの照明と遠くからのざわめきで居心地が良い。奥のベンチの端に座り、さっき買ったペットボトルのお茶で薬を飲んだ。かばんから出した大きめのストールをひざ掛けにして、本を読むふりをしてうつむき、目を閉じた。

薬が効いてくると、眠気がやってくる。

深いため息と深呼吸。

しばらくして目を開けると、いつの間にか陽が傾き、外は薄暗くなっていた。

少し、眠ってしまったんだな。寒くなったし風邪をひいたらたいへんだ。

トイレを借りて、家に帰ろう。

おかげさまで、片頭痛はおさまった。

用を足して、手を洗い、髪を整えると、横で何かが動いた気がした。

「ぇ、、? 何?」薄いベージュのバスタオルに包まれて、オムツ替えの台の上に置いてあったのは小さな子ネコだった。

捨てられたのだろか。こんなところに。

こんな寒い日に可哀想に。

私はそれをストールで作った風呂敷バッグに入れて、とりあえず、家に帰る事にした。

タクシーに乗り、風呂敷バッグを膝に乗せる。弱々しいが息をしている。

家に着く少し前に、きゅうにネコが泣き出した。激しく泣き、泣き止まない。

タクシーの運転手さんに「すみません」と言うと「お腹が空いたかな?それともオムツがいっぱいでむずがっているのかね」と振り向く。「そうなんですか?」と聞くと、笑って「いやね、私はうちのやつに任せっきりで、実際に世話なんてしたことはないんですがね。だいたいそのぐらいの時はミルクかオムツでしょう」という。

ミルクとオムツが必要なの?

そんなもん家にはないじゃない…。

「すみません、そこのドラッグストアに寄っていただけますか」

私はドラッグストアでミルクとオムツを買うことにした。

運転手さんが「わたしが、みてますよ。お客さん、買い物にいってらっしゃい。外は寒いしこの子がかわいそうだから」と言うのでご厚意に甘えさせてもらう事にした。

一番小さい一番安いオムツとミルクを選んで、、ミルクってどうやって飲むをだろう。。。あれか、哺乳瓶が必要かな?とりあえず、一番小さいの買ってみるか。

急いでタクシーに戻ると、運転手さんが上手に風呂敷バッグを抱いて泣くネコをあやしてくれていた。

そうやって抱くのか。


家に着くと、運転手さんが「お客さん、荷物運んであげるから、その子を先に家に寝かしてあげなさい」と言ってくれた。

「すみません、」と言ってネコを抱えて家の鍵を開け、寝室に風呂敷バッグごと置いて、

玄関に向かい、お礼を言って荷物を受け取った。

「新米ママさん、頑張ってな」と運転手さんが帰ると、さっそくミルクを作る。

えーと、ネコ舌って言うぐらいだから、ぬるめだよね。人間用のミルクだから、少し薄めがいいか。


そう。

ひょんな事から、私はネコを飼う事になったのだ。

きゅうな展開だ。

人生はわからない。

きゅに忙しくなった。

まずはミルクを飲ませなきゃ。





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