第2話 猫を連れて帰る

朝、家を出る時に「今日、誕生日だね」と妻に言った。朝の弱い妻は「…、ああ、そうだった。」とぱっとしない返事をしたが、いつもの事だ。

オレは今からサプライズのプレゼントの事で頭がいっぱいだ。

妻が驚き喜ぶ顔を想像するとついニヤケてしまうので、「じゃ、行ってきます。多分、帰りは早いよ」と言って玄関を出た。


   …………………………


定時を待ってすぐに会社を出た。

駅へと急ぎ、来た電車に飛び乗り、ペットショップの最寄りの駅に着くと思わず駆け足。

そんな自分の行動に我ながら、らしくないなと笑いが出てしまう。

ペットショップの扉を開けると「早かったですね」と笑顔の店員さんが声をかけてくれた。

今日の事はこの店員さんに打ち合わせ済みで、奥様へのプレゼントならばと、首輪にサテンのリボンを付けて用意してくれていた。すらりとしたロシアンブルーに光沢のあるラズベリー色のリボンがよく似合っている。

事前に相談して購入済みの、リュックタイプのキャリーバッグに入れてもらい、スーツ姿にリュックを背負って、では。と店を出た。

小猫のうちに売れずに、値下がりしていたこの猫と出逢ったのはラッキーだった。

小猫のような愛らしさは無いが、すらりとキリリとしたこの美しい猫はすでにオレに懐いているように、人になれている。

また電車に乗り家に向かう予定だったが、思っていたより電車が混んでいたし、普段はめったに使わないけれどタクシーで帰る事にした。

リュックを膝に置くと、カサカサと中で動く振動が膝に伝わる。車中では2回ほど小さくニャァと鳴いたが、大人しくしていてくれた。

タクシーの運転手さんに「猫ちゃんですか?」と話しかけられ、また柄にもなく「今日から我が家に仲間入りです」なんてヘラヘラと応えてしまった。

家の明かりが今日は特別に見える。

なんて幸せな色をしているんだろう。

右手に仕事用かばんを下げて、左手に猫の入ったキャリーバッグを持って、オレは我が家の玄関前に立った。


さて。サプライズの本番だ。

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