プロット

渋谷かな

第1話 幸せの日々

「アハハハ! 今年は東京オリンピックね。」

「楽しみだね。チケットが当たったから家族で開会式を見に行くぞ!」

「やったー! みんなに自慢するんだ! アハッ!」

「オリンピックって、美味しいの?」

「はっはっはっはっはー!」

 時は2020年。大神家は父母姉妹の4人暮らしだった。ごく普通の幸せな家庭だった。父、慎太郎。母、ひばり。妹、楓。姉の真理亜。兄の一郎は社会人で家を出ている。

「次のニュースです。中国の武漢で新型ウイルスのコロナウイルスが発生して、感染者が2000人を超えました。これから中国は春節祭で、海外旅行に行く中国人が多数いると思われ、日本も水際対策が重要になります。」

 テレビのニュースでは、中国でウイルスの発生を報道していた。

「怖いわね。ウイルス。」

「中国だろ? 日本には関係ないよ。日本は東京オリンピックだ!」

「オリンピック! アハッ!」

「開会式のチケットを転売したら100万円で売れるかしら? ニヤッ。」

 他人事だった。中国で発生したウイルスの話など。

「ワッハッハー!」

「ゴホゴホ。」

 多くの中国人が春節祭で仕事が休みなので、日本に旅行にやって来た。日本の政府はウイルスを他人事だと思い、中国人観光客の入国を許した。

「おはよう! 桜ちゃん!」

「おはよう。真理亜ちゃん。もうすぐ卒業式だね。なんだか寂しくなるね。」

「大丈夫だよ! だって同じ高校に行くんだもの! アハッ!」

「アハハハ!」

「それより桜ちゃん。オリンピックの開会式のチケットを買わない?」

「いくら?」

「100万円!」

「いらない! アハッ!」

「ガーン。」

「アハハハ!」

 大神家の姉の真理亜は中学三年生。もうすぐ卒業式を控えていた。

「もうすぐ私も高校生になるのね。アハッ!」

 中学校を卒業すると思うとジワッと胸に思いが込み上げてくると同時に寂しさもあった。

「なにノスタルジーな気持ちになってるのよ。真理亜ちゃんには似合わないぞ。」

「そうだね。桜ちゃん。高校生になっても二人でおバカな花を咲かせようね。アハッ!」

「それは断る。」

「ガーン。」

「じゃあね。また明日。」

「バイバイ。」

 二人は中学校を後にして別れた。

「緊急速報!!! 日本に新型コロナ・ウイルスが上陸しました。日本列島を縦断し日本人の感染者が大量に発生。」

 昨日までと同じ、また明日はやって来なかった。

「2020年、東京オリンピックは開催されなかった。中国の武漢で発生した新型コロナウイルスは、全世界に急速に感染を拡大させ、10億人の人々を死に追いやる。僅か1カ月足らずのことだった。」

 平凡な幸せは長くは続かない。

 つづく。

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